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北風と #シロクマ文芸部

 こんにちは! 今日はシロクマ文芸部さんの『北風と』から始まる小説を書くというお題で書きました。
 と思ったら、昨日の夜で〆切が終わってましたね…すみません💧 でもせっかくなので投稿しておきます。それではよろしくお願いします!


 終わらない夜

 北風とたわむれるように、外へ飛び出した。
 既に日が沈み、辺りは真っ暗だ。おりしも、雪までちらついている。

 ──寒い。
 振り向くと、家の中ではまだ罵声と金切り声が響いていた。

「はあ、」
 ため息を1つくと、とぼとぼと歩き出す。どこへ行こう。真夜中もとうに過ぎていた。ファミレスも遠いし、財布も持ってきていない。
 しょうがない、コンビニへ行くか。
 僕は近くの店へ行く。裸足につっかけだし、後は寝るだけだったので上下ともパジャマ代わりのスウェットで、部屋着感丸出しだ。はっきり言ってかなり恥ずかしい。

 それでも、家には帰れない。今頃、彼女は散らかり放題の部屋の中で泣いているかもしれない。僕の力不足のせいだ。
「ごめんな」
 心の中でつぶやいた。

 由真ゆまとは、バイト先で知り合った。彼女も学生で、その合間にバイトをしていた。明るくてハキハキしていて、いい子だなと思って次第に仲良くなった。バイトのメンバーで遊びに行ったりして自然に付き合うようになり、流れで一緒に住むようになった。

 初めはこのままずっと一緒にいられたらなんて夢見ていたけれど、だんだん生活にひびが入り始めた。僕は就職して2人とも前より忙しくなり、すれ違いが多くなってくる。

 僕が仕事から帰ってくると、テーブルに食事が置いてあり、彼女は寝ていることが多くなった。
 バイトを増やして疲れているようで、笑顔を見ることも少なくなっていた。ある日、ささいな事で口論になり、彼女は声を荒らげる。

「私が悪いって言うの⁈」
 そう言うと、手元にあったリモコンを戸棚に投げつけた。

 ガチャン‼︎
 それは大きな音を立て、のぞき窓のガラスが割れる。僕は驚きのあまり声を失った。
 彼女ははっと我に返り
「ごめんなさい!」と言った後、ケガはない?と聞いてきたり、後片付けをしたりと慌ただしく動き回った。

 けれど、それ以来彼女は暴言と暴力を振るうようになる。少しずつ、けれど着実にエスカレートしていった。

***
 結局、その後ずっとコンビニにいて夜を明かした。明け方にそっと家に入り、様子を伺う。

 リビングには誰もいなかった。僕は着替えて、仕事場へ向かう。
 由真と別れることも考えたが、まだ愛していた。普段は、優しくていい子なのだ。けれど、暴力にはもうこれ以上耐えられそうになかった。一体どうしたらいいのだろう…

 前に一度、同僚に「友達の話なんだけど」と前置きして軽く相談してみたが
「何、そいつ。もうとっとと見切って、別の彼女を見つけた方がいいんじゃね?」
と一刀両断され
「ハハ、そうだよね」
と返すしかなかった。

 今日も解決策が見つからないまま、とぼとぼと家へ帰る。

「…ただいま」
 どうせ寝ているだろうと思いながらドアを閉めた。
 と、リビングに彼女がうつむいて座っている。僕はビクッとした。

「驚いた。まだ起きていたんだ」
 平静を装いながら声をかける。
「ねぇ、」
 彼女が低い声で言う。
「この間飲み屋に行ってたでしょ。なんで?」
「え?」
 何の事を言ってるんだろう。
「とぼけないで。女と2人で飲んだでしょう。知ってるのよ、私」
 そんな事はしていないが…もしかして。

 由真の話を、同僚の女性に相談した事を言っているんだろうか。あの日は、他にも来る予定がたまたまみんな都合が悪くて、2人になってしまったのだ。

「あれは同僚だよ。やましい事はしていない」
「うそよ! 今日だってあの女と会って遅くなったんでしょう」
「仕事だってば」
 彼女は両耳に手を当て、金切り声を上げる。

「私はこんなに頑張ってるのに! あなたは外で遊んでばかり!」
 そう言うと、手当たり次第にものを投げつけた。
「ねえ、落ち着いて」
 声をかけるが、聞こうとしない。
「ひどい、ひどいわよ!」
と暴れる。抱きしめようとしても、拳で殴られた。そして部屋を引っ掻き回し始める。

「……」
 僕はなすすべもなく座り込む。
 全てが終わったら、疲れきった彼女を寝室に寝かせ、散らかった部屋を片付けて、壊れたものを処分する…
 こんな事が、数え切れないほど繰り返されていた。何度も何度も、何度も…

 ──もうこんな生活は、こりごりだ。
 僕はふらふらとバルコニーへ出る。窓を開けて下をのぞくと、中庭が小さく見えた。

「何をしてるの…?」
 振り向くと、ボサボサの髪をした彼女がこちらを見ていた。僕は微笑んでみせる。

しゅう、何をするつもり」
「もう終わりにしよう。
君を愛している。けれど、これ以上は僕の手に負えないんだ。
かと言って、別れる事もできない。なら…こうするしか」
 そう言うと、欄干らんかんに手をかけた。
しゅう⁉︎ やめて」
 由真はそう言って、手を伸ばす。

「動くな‼︎」
 勢いよく玄関が開き、大勢の警官が乗り込んできた。

「え⁈」
 僕と彼女は驚いてそちらを向く。彼らは土足のままドカドカと部屋に上がり込み、彼女と僕を保護した。
「どうしたんですか、一体」
 1人の警官が彼女に質問する。
「彼を……助けて」
 由真はそう言うと、力なく座り込んだ。
 大丈夫、大丈夫ですよと言い、彼女の肩に毛布をかける。

 ──よかった。
 緊張が解けて、ずるずると腰を下ろした。
「大丈夫ですか?
隣の方から、何か騒ぎ声が聞こえると通報があって来ました。怪我はないですか」
「…はい」

 ──これで、やっと終わらせる事ができる。空腹と安堵で視界が暗くなってくる。僕はそのまま気を失い、暗闇に沈んでいった。

             了

 後書き
 普通はあまり書かないんですが、書くきっかけを少しだけ。
 たまたま見かけたnoterさんの創作でこのタグを知り、前日に米津さんの『ガラクタ』を聞いていてイメージが広がってこの話を書きました。少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです(不穏な話ですが)

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時雨
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