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「分人主義」を治療に活かす。 –人間作業モデルによる考察−

この記事は平野啓一郎さんの著書「私とは何か 『個人』から『分人』へ」に基づいて記載しています。

あくまで私の考察であるため、エビデンスがある論理ではないことをご了承ください。


公式サイトもあり、わかりやすく「分人主義」について紹介されています。詳細はそちらの方に譲りたいと思います。



簡単に説明すると、平野氏は人間を「個人」から更に分けた「分人」として捉えており、他者との交流によって違う自分(分人)が存在すると述べています。

この理論に私は衝撃を受けました。

私が「自分」について漠然と感じていた概念を見事に言語化しており、ひどく共感できたからです。

作業療法との親和性が高いと感じたため、人間作業モデルと絡めて考察していきます。

人間作業モデルとは


人間作業モデル(以下、MOHO)は作業療法の代表的な理論になります。

人間の内部にある意志, 習慣化, 遂行能力という3つの概念が, 環境と相互作用することで作業適応の状態が生まれる.

山田孝:事例でわかる人間作業モデル. 協同医書出版社, 2015, pp14-26.

MOHOは幅広い領域で使用されており、エビデンスが日々構築されています。

 

分人主義との親和性


まずはMOHOの概念である「作業同一性」と「作業有能性」を紹介します。

作業同一性とは、ある人が作業参加の個人史から作り出す作業的存在として、自分は何者であり、どのような存在になりたいのかという複合的な認識と定義される。
作業有能性とは、私たちが自分の作業同一性を反映する作業参加のパターンを維持することである。

山田孝:事例でわかる人間作業モデル. 協同医書出版社, 2015, p18


作業同一性では、人は「主婦」や「勤労者」などの役割を持って生活していおり、作業を通して自分がどんな存在なのかを認識します。その作業を維持する能力が作業有能性です。

MOHOは環境による相互交流を受けるため、「勤労者」の役割を担っている人が実家に帰ると「子ども」に、サークルに入ると「趣味人」というように役割や行動が変化していきます。

これは分人主義と類似しています。

他者との交流を含む「環境」によって出現した分人が、「意志」「習慣化」「遂行技能」に影響を与えていきます。

分人ごとに作業同一性が変化し、それに伴う作業有能性も変化していきます。


つまり、分人はMOHOの「意志」「習慣化」「遂行技能」「環境」全ての要素に影響を受けると言えます。


分人の構成比率をMOHOで改善する

平野氏によると、人にはそれぞれ所有する分人に「構成比率」があります。

学生であれば学校で過ごす時間が多いため、学校での自分(分人)が自分の本当の姿だと認識することが多いです。

しかし、学校での自分と家庭での自分は振る舞い方が違うと思います。

私も学校では内向的ですが、SNSでは外交的でした。むしろ、SNSの方がいきいきできると感じています。

生活の中で自分が心地よい分人の構成比率を拡大することで、作業適応が促されるのだと思います。

そこで、自分が価値を置く分人を最適な構成比率へと導く方法としてMOHOが活用できます。


MOHOの活用方法

臨床では、入院や入所といった環境の変化により、今まで占めていた分人の構成比率が変化します。

作業療法士はMOHOを使うことでクライエントを包括的に評価でき、介入することで元の分人(≒作業同一性)を再獲得することができます。

例えば、「作業質問紙(OQ)」や「作業に関する自己評価(OSA)」を使用すると、クライエントの生活スケジュール、取り巻く環境、価値を置く作業を評価でき、分人の構成比率を把握することができます。

評価をもとに、クライエントにとって大事な分人を引き出せるように「環境」を調整したり、「習慣化」を促したり、「遂行技能」を高めたりします。

※臨床では特に「環境」(自宅環境、家族関係など)や「遂行技能」(心身機能、活動など)に介入することが多く感じます。

「家事をすることが好き」であれば主婦としての分人を、「友達と交流することが好き」であれば友人としての分人を再獲得できるように介入するイメージです。

まとめると、MOHOは分人の構成比率を把握し、その中でクライエントが大事にする分人を特定し、最適化することができます。


以上は臨床での活用例ですが、MOHOは実生活でも活用できると考えています。もしよろしければ過去に纏めた記事をご参照ください。


おわりに


作業療法士は「その人らしさ」を捉える専門家です。

そのため、クライエントの分人を分析し、治療することができる唯一の職業だと考えています。

MOHOは, 他の作業療法のモデルや学際的概念と一緒に使われるように意図しており, 他のモデルを組み合わせて用いることで, CLのニーズを満たす包括的なアプローチをもたらすとされている.

人間作業モデルへのいざない. キールホフナーの人間作業モデル—理論と応用—, 改訂第5版 第1章. 協同医書出版社, 2019, pp3-11.


引用にもある通り、MOHOと分人主義の組み合わせは有用だと言えます。

分人主義の概念を知っておくと、クライエントや自分への評価・介入の解像度が高まります。


私は柔軟に理論を組み合わせ、新たな知見を生み出していきたいです。




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