鳥日記
3月2日
無自覚なうつ状態の真っ只中、夫と静岡へ遊びに行った。
夫の趣味であるペットショップ巡りをしている時、一羽の十姉妹と出会った。
彼女は凛として、がに股で枝の上に立っていた。
え、鳥ってこんながに股なの。
他の小動物や鳥を一通り眺めてから、私の足は自然と十姉妹のケージの前に戻ってきた。
どう見ても、かなり可愛い。
いつかホームセンターのペットコーナーにいた、子どもの柴犬を思い出す。その柴犬もまた、凛として、ちっこい癖に妙に誇らしげな顔で、アクリル板の向こうに立っていた。
店員に声をかけ、この十姉妹は懐くかと訊ねた。小さな小さな十姉妹は、既に生後数ヶ月経った成鳥であり、今から懐くことは無いという。少し考えたが、懐かなくても良い、そんなことは問題では無いと考え、迎えることにした。
契約書類を読み、サインをする。十姉妹がこの店に来たのは昨年8月17日。生まれたのはその数日前だと考えると、その頃失った命の生まれ変わりのような気さえした。
高速道路で家に帰り、早速ケージに入れる。ペットショップの店員が、店のケージから小箱に入れるところを注意深く見ていたので、見よう見まねで鳥を掴んだ。店員からは、部屋でなくトイレなどの小部屋でケージに入れることを勧められていたので、そのようにした。
初春はまだ寒かったので、毛布をかけ、ヒーターをつけ、その上から隙間のあるダンボール箱を被せて寝かしつけた。
昼間の晴れた日はケージを窓際へ持っていき、数時間の日光浴をさせた。
無自覚なうつ状態は相変わらず続いたが、鳥のご飯、飲み水、ケージの掃除だけはできた。鳥の世話だけが拠り所になった。何ができなくても何が辛くても、鳥のためなら朝の数十分は活動ができた。
そのうちうつ状態を自覚し、医者から薬を貰い、精神状態は回復した。バイトを始めて、お給料で大きなケージを買った。
本当はもう一羽、十姉妹を迎えたかった。繁殖すると大変なのでメスを探したが、メスの十姉妹はどこにも売っていなかった。
最近になり、また静岡へ行ったので、ペットショップへも立ち寄った。やはり取り扱っている十姉妹はオスだった。念の為店員に確認すると、後から来た新入りに対して小鳥は大変厳しく、イジメ殺してしまうことさえあるらしい。
うちの十姉妹は確かに臆病で警戒心が強い上に、何故か気が強い。餌の世話をする私に対してはまだマシとして、たまに夫が近寄ると警戒し、威嚇までする。
絶対イジメ殺すと思うので、悠々自適な独身暮らしを満喫してもらうことになった。
午前中は広々としたケージの中を縦横無尽に飛び回り、水浴びをし、餌をついばむ。
午後はまったり過ごしている。何とも可愛い。
話し掛けると、まるで返答をするかのように小首を傾げる。本当に可愛い。
朝は窓の外で鳴いている小鳥に張り合うように鳴く。
たまにキッチンでコーヒーミルを挽くと怒り出す。
大きさは寿司に限りなく近くて、小鳥って寿司だなーと思う。