2023年の欧州ベンチャーキャピタル: PitchBookの第3四半期レポートからの洞察-回復の兆しを見せるも、過去2年間よりも取引額は下回る
この記事では欧州ベンチャーキャピタルの2023年第3四半期の動向について、PitchBookのリポートに基づいて考察されている。
欧州のVCの2023年のディール額は、第1四半期から増加傾向にあり、更にスタートアップのステージ、セクター、地域ごとのデータの分析がなされている。2023年第1~3四半期のエグジット額を見ると、2023年が2013年以来最もエグジットが落ち込んだ年になる見込みである。2023年1~9月の欧州VCの資金調達額は139億ユーロで、今年は2022年の水準を超えない見込みである。フランスとベネルクスは、欧州で最大の資金調達を行なっている英国とアイルランドに資金調達額で迫っている。
欧州におけるベンチャーキャピタルの取引額は回復の兆しを見せている(可能性がある)が、数字は過去2年間を下回っている。
PitchBookが発表した2023年第3四半期欧州ベンチャーリポートによると、ベンチャーキャピタル市場におけるディール額は2023年末には2022年を大きく下回る見通しだが、回復の兆しは見られるという。
同レポートによると、欧州におけるベンチャーキャピタルのディール額は、年初来の9ヶ月間で436億ユーロに達し、2022年の年初来の9ヶ月間から49.1%減少した。
2022年のディール総額が1,090億ユーロであったとしても、年末までの回復は、2023年の総額を過去2年に対して押し上げるほど大きなものではないとの予測である。
VCディール額
2020年以前のディール額は、2023年の最初の3四半期と比較して、ほぼ同等かそれ以下であったとしても、ベンチャーキャピタルの活動は長期的には構造的な成長を遂げていることを示している。短期的(四半期ごと)に見ると、取引額は第1四半期から増加傾向にある。データによれば、第3四半期のディール額は第2四半期と比較して5.9%増加した。
報告書では、注目すべき結論のいくつかが強調されている:
・レイトステージの案件は引き続き、アーリーステージの案件に比べて大きな減少を示している。レイトステージのディール額は、2023年第3四半期まで、前年同期比で61.9%減少した。
・アーリーステージのディール額は、2023年第1四半期以降、順次増加している(第3四半期の上位10件のうち4件がアーリーステージに該当)。
・注目すべき案件では、クリーンテックとAI技術が多かった(当四半期の大型案件10件のうち5件がクリーンテック案件で、うち3件が大型投資案件)。
・商業サービス、フランスとベネルクスは、セクターと地域動向に関して最も回復力を示している。
・しかし、イギリスとアイルランドは依然として圧倒的にリードしており、ヨーロッパにおけるディール額の33.2%が2023年1~9月までに取引されている。
VCのエグジット活動
報告書によると、2023年第1~3四半期のエグジット額は91億ユーロに達した(前年同期比72.8%減)。従って、2023年は2013年以来、エグジット額が最も落ち込んだ年になりそうなのは当然である。
エグジットの種類別では、上場が今年も最も落ち込んでおり(前年同期比79.8%減)、買収が最も回復力を示した(それでも前年同期比56.4%減)。エグジット額と件数の大半は依然として買収である。
セクター別では、ITハードウェアが最も回復力を示しており、エネルギーが年初来9ヵ月間で最も落ち込んでいる。2023年第3四半期には、上位10社のエグジット案件のうち、ほとんどがソフトウェア産業であった。
VCによる資金調達活動
2023年1~9月の資金調達額は139億ユーロに達した(これに対し、2022年の総額は276億ユーロ)。データによると前年同期比で減少しているが、2023年上半期以降は増加しており、資金調達額は89億ユーロに達している。
報告書に記載されているように、今年1年の間に資金調達が顕著に増加したとしても、今年が2022年の水準を超えるとは予想されていない。アセットクラスにメガファンドがなく、合計が歪む可能性があるなど、その理由は様々である。
地域別では、2023年第3四半期までに調達された資本のシェアが2022年と比較して最も大きかったのはフランスとベネルクス(27.8%)、次いでDACH地域(24.3%)であった。
このシェアで、フランスとベネルクスは、欧州全体における調達資本の割合で最大の地域である英国とアイルランドに迫っている。