私はよくかわいいといわれる〈6〉
文化祭初日の午前10:00。毎年恒例のサッカー部の試合がある。わが藤崎高校対西川高校。森本君は7番を背負って左サイドにポジションを取っていた。観客席には1年の森本ガールズが森本君をすぐそばに見える位置に陣取っていた。ガールズは待ちきれないと言った感じで無駄に跳んだり跳ねたりしている。私と金井君と鈴音ちゃんも応援のため席を取る。グランドの周りは藤崎高校、西川高校それに他高の生徒やらで結構なギャラリーができていた。
試合が始まってからすぐ森本君がボールを受けると2、3回体を揺らす。相手がプレッシャーをかけに来る。クライフターンで相手を抜きにかかる。相手はそれに反応するも、その瞬間、森本君はラボーナで切り返す。尻もちをつくディフェンダー。森本君はそこを突破してシュート。ゴールを決める。
会場にどよめきと歓声が上がる。
悲鳴のような叫び声をあげるガールズ。
森本君は180センチもあるとは思えないクイックネスで何度も相手を抜いてゴールを演出する。そのたびに上がる歓声とガールズの悲鳴。
前半が終わった時点で4-0のスコアになっていた。
後半が始まったが前半で勝負がついてしまっていたので、会場はなんとなく落ち着いた雰囲気になっていた。余裕がでてきたのか金井君と鈴音ちゃんは楽しそうにしゃべっている。時折見せる森本君のプレーに湧く観客。ゴールを決めれば湧く歓声も、5点6点と入るうちに歓声は明らかにトーンダウンしていた。その中で忠誠心を示そうとガールズの悲鳴が会場のトーンとは裏腹に際立つがその悲鳴も7点目以降はもう「意識的な悲鳴」に変わっていて終わってみれば8-0だった。ガールズを見ればみんなぐったりしていて何かから解放されたような、あるいは大切な何かを失ったような呆然自失と言った風情で放心している。
その時私はあることに気づいた。金井君はもう鈴音ちゃんのことが好きではない。1人の友人として好きではあるだろうが、いわゆる「あの」好きではなくなっている。さすがに鈴音ちゃんの森本君への視線で気づいたのだろう。金井君は諦めたと言うか心が折れたと言うか要は「悟った」のだろう。それでも金井君と鈴音ちゃんは楽しそうにまだしゃべっている。なんか金井君が大人になったように私は思った。