見出し画像

初めてのイチゴのソフトクリーム



あれは小学校2年生くらいの夏休み。

お中元を配るために父と仙台と多賀城辺りの親戚をまわり終え県南に向かって走行中だった。


暑い暑い夏真っ盛り。当時父の車にはクーラーが無く窓全開で走行していた時だった。 

暑い暑いとお互いに言いながら帰路についていた。


不意に父が現イオンの当時サンコアの看板を見つけ

「○○アイスでも食ってくか?」

と聞いてきたのだ。


サンコアは子供会の帰りにみんなで寄って買い物をした事があった。山奥の農村に住む私達はサンコアは子供会かお正月の初売りでしか来ないような特別な所だった。


食べる食べる。


私がテンション爆上げで答えると父はサンコアに向かってウインカーを出した。


駐車場では父は車を桜の木の下の日陰に止めた。ちょっと入り口までは遠いけど日向よりマシだと父は言っていた。


フードコートは満杯で沢山人がいた。


すぐに父の後ろにまわり、父の服の裾を掴んで半分隠れて半分出ているいつもの人見知りスタイルになった。

当時人見知りが酷かった私は家族以外の人と喋るのが本当に苦手で私自身も非常に生き難さを感じていた。


「○○、イチゴソフトクリームだと。それにしねか?」

父が指さした方向を見ると白いソフトクリームのオブジェの隣にピンク色のソフトクリームの旗が立っていた。


私が知っているソフトクリームは母と稀に買い物に出掛けた際に駅前のエンドーチェーンの食堂で食べるお子様セットの焼きそばとタコ焼きの隣にちょっぴり置かれた小さな小さな溶けたソフトクリームだった。タコ焼きのソースと少し混ざっていてとても不味かった。


イチゴのソフトクリーム?美味しいの?


「んまいべやぁ。イチゴだぞ?そいつにすっぺ」



イチゴは好きだしまぁいいか。など考えて父の後ろに再び回った時、父が言った。


「○○、あの姉ちゃんにイチゴのソフトクリーム2個下さいって言ってけろや」


え……


「ほれ500円あれば足りっから。な?」


父がニコニコと笑っている。


え…イチゴのソフトクリーム2個下さいって言えばいいの?


500円を手渡されドキドキしながら父に聞いた。


「んだ」


これは私に注文をやらせたいんだな。と気付いた時は既に遅し。列にならばされていた。


心臓がドキドキした。物凄く緊張したのを覚えている。


イチゴのソフトクリーム2個イチゴのソフトクリーム2個


心の中で何回も練習した。



思い詰めているうちにあっと言う間に私の番が来て一歩前に出された私はまさに蚊の鳴くような声で


「イチゴのソフトクリーム2個下さい。」 

と、お姉さんに向かって言った。声がちょっと上擦って物凄く恥ずかしかった。顔がカァーっと熱くなるのがわかる。


言った。言えた。恥ずかしよぉ…くぅ…




今思い出してもあんなちょっとした事に目一杯緊張した自分が情け無いやら可愛いやら…もう本当にねぇ…。


それからの流れは恥ずかし過ぎて物凄くギグシャグしながら500円を渡したり、お釣りを手渡されたり、受け取り口からソフトクリームを貰ったりした。


2個目のソフトクリームを父が受け取った時、本当に心から安心した。


出来た。


ソフトクリームを注文してお金を払って品物を受け取れた。


ただそれだけの事なのに物凄く達成感があったし本当にホッと安心した。本当に安心したのだ。



「なんだ。んまそうだな。クーラーの風さ当たりながら食うべ。」




心臓をドッキドキさせながら買った初めてのイチゴのソフトクリームは冷たくて甘くてとても美味しかった。今までで一番美味しいソフトクリームだった。


父がソフトクリームを食べながらウチにもクーラー欲しいなぁなどと言っていたけど実際、実家にクーラーが設置されたのはそれから30年後だ。


ウチに帰ってからソフトクリームを食べた事を祖母に報告すると


「いいなやぁ。婆ちゃんも食いてかったやぁ」

と、笑っていた。


今度サンコアに行った時に食べようよ。私買い方わかったからさ。


そう婆ちゃんに言うと婆ちゃんは更にニコニコして

「んだかぁ。そいつはいいな。んでは○○に頼むべ」


と言った。


ちょっと、本当にちょっとだけど自分に自信が付いた暑い夏の日。


ちなみに婆ちゃんとは結局サンコアにアイスは食べには行かなかったけどよくラーメン屋には味噌ラーメンを食べに行った。


注文はいつも私がしていた(笑)




いいなと思ったら応援しよう!