![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/121015921/rectangle_large_type_2_5e0d59d3e194902db4d82a3f1c517693.png?width=1200)
爺ちゃんの幽霊?
あれは小学校低学年頃の夏休み。
8月の半ばでお盆の期間中だった。
その年は同じ県内に住む父の妹のおばちゃん達に加え神奈川に住む父の弟であるヒロシ叔父ちゃん(仮名)も帰省して来ていてそれぞれ親戚のいとこ達も合わさりだいぶ賑やかなお盆休みとなっていた。
いとこ達や叔父、叔母達と岩魚捕りやバーベキューや花火など夏休みらしい事を沢山し笑い転げ夜になり遊び過ぎて眠くなったいとこ達は次々に帰って行った。
帰る一家を見送るたびに、日中の大騒ぎを思い出しちょっと寂しくなった。帰りたくないと泣き出すいとこさえいた。
「またお彼岸に来るからね」
お泊り予定の親戚以外はそう言って帰って行ってしまった。
茶の間はさっきまでの賑やかな雰囲気とは打って変わって父とヒロシ叔父ちゃんとヒロシ叔父ちゃんの奥さんの初子叔母ちゃんと祖母が片付けをしつつお菓子とお茶の用意をしていた。
母は下の兄弟達のお風呂と布団の用意をしていて残った小さないとこ達は既に奥の座敷で疲れて眠っていた。
お茶を貰ってぼぉっとテレビを見ながらお盆棚に飾りきれなかっただろう出されたモナカを食べていると不意に父が亡くなった爺ちゃんの話をしだした。
よりにもよってお盆期間中なのに怖い話だ。
「あの頃はそこら中に親父の気配がした。まだ逝きたく無いって言ってるみたいだったな。」
多分、爺ちゃんの初盆か亡くなったばかりの時の話だ。
40代後半で亡くなった祖父。父は24歳で家督を継いだ。昭和も中頃、苦労は相当なものだっただろう。
さわさわと鳥肌が立つような感じがしたのだそうだ。どこへ行くにも何をするにも。
ある時、眠っていると廊下の端で何やらカサカサ音がする。飼い猫は足元にいるしネズミとはまた違う音だ。
不意に言葉が出た。
「親父か?」
するとピタリと音は止み足音が廊下を横切って行ったのだという。
たまに怖い話をせがむと父はその話をしてくれた。
「お父さんは爺ちゃんの幽霊に会ったことがある。」
怖いけど身の毛もよだつ…程では無い怖い話。
次の日は地区の盆踊り大会だった。
小さな山間の集落にとって盆踊り大会は秋の大運動会と同じくらい大きなイベントだった。子供会や若妻会、婦人会、青年会、敬老会など今では考えられないくらい多く、小集団活動が盛んであり今は廃校になってしまったけれど当時は小規模ながら小学校もあった。
そんな一大イベントの盆踊り大会。大きなやぐらも組まれ青年会の割と若い世代の男の人達が太鼓を叩いたり横笛を吹いたり、そしてそのやぐらの周りを綺麗に浴衣で着飾った人達が盆踊りをして回っていた。
綿あめや焼き鳥、かき氷等の出店も出ていて割と安く食べれた気がする。
夜なのに明るくライトアップされ音楽とテンションがいつもより高い同級生と、綿あめ、かき氷、数発だけど夜空に上がった大輪の赤い花火。ワクワクしてこの時間が終わらなければ良いのに、等と思いながら妹や友達、いとこ達と大いに盆踊り大会を楽しんだ。
しかし時間が来ればやはり盆踊り大会は終わりを迎えるわけで。
司会の区長さんが締めの挨拶を行っていた。
子供達には特別にお菓子の詰め合わせセットが貰えると言う。
「子供達は取りに来てください。小学校、中学校の方優先。高校の方は早い者勝ち」
区長さんが戯けて声がけをしている。
母に促され私も取りに行くことに。
区長さんからお菓子セットを受け取り振り向くと後ろに居たはずの妹がいなかった。
あれ何処に行ったの?
私は母といた場所付近まで戻ってみたけれど誰もいなかったのだ。
あれ〜何処行ったの?こっちか?
つぶやきながら走って遊具場の近くに行くとシートを引いて座って子供達がお菓子セットを配るのをにこやかに見ている人がいた。
ワンカップ片手に立て膝でどことなく父に見えた。
え?お父さん?なんでここにいるの?戻ろうよお父さん。
肩を掴んでユサユサ揺さぶる。
「うん」
お酒で酔っ払っているのか赤ら顔でそう言ったその人。
おかしいと思い正面からよく見たらその人は父ではなかった。急に恥ずかしくなり顔が真っ赤になるのがわかる。
あれ?お父さんじゃなかった。
間違いましたもごめんなさいも言わずみんながいるやぐらの方に走り逃げる私。
普通に何もなかったように母と妹がいた。
「お菓子貰った?じゃ帰るよ」
父はこれから青年会の打ち上げで朝まで飲み会だそう。
あの人は後ろの家のおんちゃん。
私はそう納得しいとこ達と家に帰ったのだった。
またまた時は流れ20代始め。祖母の葬儀後だったと思う。叔父や叔母達と昔の写真を見て思い出話に花を咲かせていた時のこと。
1枚の白黒の父によく似た人の写真が出てきた。大変にこやかに撮られており多分、田んぼ仕事の後だったらしい。
この人誰?
私がそう聞くとみんな口を揃えるように
「あんたの爺ちゃんよ」
「早くに亡くなった若い爺ちゃん。あんたばよう抱っこしたノッポのとっしょり爺ちゃんでは無く。若い爺ちゃんよ」
私この人に会ったことある。
そう言うとみんな疑う事もせずに何処で?!と聞いた。
小学校の頃の盆踊り。ワンカップ片手に盆踊り見てたのよ。お父さんかと思って声掛けたら違うから恥ずかしくなって逃げた。
「父ちゃんらしいなぁ。普段は飲まないのに飲みだすと浴びるほど飲んだんだ」
「盆踊り見たかったんだなぁ」
みんな柔らかい笑顔で爺ちゃんの思い出話をし始めた。
「あんちゃんと○○(私)だけだなぁ父ちゃん見たのは。羨ましいなぁ」
叔母ちゃんの一人が涙ぐみながら笑って言った。
「私は幽霊でもいいから父ちゃんと母ちゃんさ会いたいなぁ」
お父さんも笑っていた。
「なんだ○○も会ったか。お父さんだけかと思ってた」
いやたまたま似た人だったかも知れないし、お父さんが聞いた足音も認知症気味の曾祖母だったかも知れない。普段霊感のレの字もない二人が急に持て囃されてもただただ恥ずかしいだけだ。
「あんちゃんと○○は同じだな」
叔母ちゃん達から羨ましい羨ましいと言われ幽霊が見えても全く嬉しくない霊感女と霊感親父はお互い顔を見合わせて苦笑いをするしか無かった。
お父さんと苦笑いをしたそんな怖くもないゆる〜い思い出。