「PPP/PFIの教科書」書籍出版の体験記その④「校正の神様、敵はパソコン」
2024年の2月に「これ一冊ですべてわかる PPP/PFIの教科書」という専門書を中央経済社から出版しました。出版前から「書籍ができたら、それまでの取り巻くストーリーを伝えると、誰かの役に立つかもしれないよ」とアドバイスを受けたので、何回かに分けて綴っていこうと思います。
第四回は「校正の神様、敵はパソコン」です。
「書籍出版には興味があるが、PPP/PFI(官民連携)って、何じゃそりゃ?」という方も、専門知識なしでもイメージいただけるようお伝えしますので、ぜひお付き合いください。
【1】「校閲」と「校正」は違います
原稿ができあがり出版社に納品したら、肩の荷が下りて「ようやく終わったわあああああ~♪」と歌いたくなるものです。ただ、ここから誤字脱字をチェックする校正作業があり、目次や索引などを確認する作業があり、表紙のデザインを決めるという作業が待っているので、意外と気が抜けないというのは、第三回でお伝えしたところです。
実は、原稿を書き始めた頃は、「校正」と「校閲」の違いも知らずワクワクしていました。というのも、テレビドラマで(そう、石原さとみさんの、あのドラマです)、『校閲部のスタッフが推理小説の事件現場の描写が、本当に正確なのかどうかを、わざわざ模型を作って再現して検証する』シーンに、とても関心したことがあるからです。
そのため、以前の会議で編集長に、「内容が正しいか細かくチェックが入るんですよねえ?」とお気軽に聞いてしまい、「当社は内容に責任が持てる方にしか、執筆をお任せしない主義です!(キッパリ)」と叱られたりしたこともありました。
「校閲」とは文章の内容に踏み込んで、内容が事実と違っていないかどうかなどを精査する作業がメイン。それに対し、「校正」とは誤字脱字といった文章表現や文法などに問題あれば修正を行なう作業です。
確かに、「解説書」を執筆するのであれば、内容が事実であるかどうかは著者の責任でして…。(だって、聞いてみたかったんだもん)
この、校正作業が複数回あり、校正部の方の赤ペンが入った原稿のコピーが送られてくると、そのチェックバックを返信することになっていました。
いずれにしても、まだまだお気楽だった私は、「だって、パソコンで原稿を書いていて、Wordの校正検閲機能をきめ細かく使っているし、まあ大丈夫じゃん」と思っていたのです。
【2】意外と気づかない、自分の言葉グセ
実際に、校正原稿を受け取った時の衝撃は、今でも覚えています。
行政コンサルタントという仕事がら、接続詞を漢字にするかどうかや(例:「したがって」と「従って」)や、いくつも表記がある言葉(例:「取り組み」と「取組み」)などを統一するクセは、ある程度はついているつもりでした。ところが、校正原稿は、赤ペンぎっしりだったのです。
どうやら、自分でも気づいてはいなかった「言葉グセ」がたくさんあったようで、それらを細かく見つけては「〇〇に変えろ」という命令口調ではなく、「〇〇や▢▢の方がいいのでは?」とアドバイスする口調で、びっしりと書き込まれていたのです。
特に多いのが、何気なく当て字を使っている表現でした。クチで話すわけではないのに「~という」を「~と言う」と書いてしまっていたり、ストリートではないのに「~のとおり」を「~の通り」と表現していたり…こういうミスって、パソコンの校閲機能では当然見抜けないのです。
さらに、分かりやすい工夫のつもりで、漢字の熟語表現を避けた結果、そこだけ文体テイストが揃っておらず、過度に稚拙な言い回しになっていることもありました。
この解説書は、難しくて取っつきにくいPPP/PFIという制度を、「初心者が鼻歌うたいながら読んでもわかる」ようにしたかったため、最大限に表現をかみ砕き、論理展開に相当注意して「読み物」っぽくなるように工夫したのですが、そうした工夫の粗密を丁寧に拾ってくださったのです。
作品というものへの愛情がなければ、あの細かい作業はできないと思います。心の底から、出版社の校正部って神様だと思いました。
中には、せっかくアドバイス頂いたのに、法的見地からの正確性や、実務面からの通例の言い回しを確保するために「原文ママ」をお願いすることもありました。
ただ、もうその頃には、校正メンバーの方とは、直接お会いする機会がなくてもワン・チームのような気がしていたので、「原文ママ」の指示を書き込むだけではなく、その理由もだらだら書き込んでおいたりして…
こうして、著者校正は出版社の赤ペンと著者の青ペンで、カラフルな姿になって出版社に戻っていくのでした。
【3】パソコンの誤変換探しは”干し草のマッチ”
そうした火の玉のような校正作業にもかかわらず、正直に言うと、最初の第1刷の段階では、びっくり誤植が2か所残ったまま、全国の大型書店やAmazon などのオンライン書店から出版される結果となりました。
理由は、パソコンのタイプミスと誤変換。一行ずつ声に出して読み、社内でもずば抜けて優秀で、かつ細かいチェックが得意な、私が博士と読んでいるノブオさんにも校正を依頼したのですが、間違った箇所があまりに自然なので、誰も気づかなかったのです…。
「物権」を「物件」の誤変換などは、本文中は出版社の校正チームが、神様の目で細かく拾い出してくださって全て修正できたのですが、段落タイトルにもドーンと入っていたのは、意外と誰も気づかず…。
パソコンの誤変換を見つけるのは、まさに干し草の中からマッチを探し出すようなものなので、増刷のたびに出版社のお力添えでコッソリ小さいミスを修正することが続いたのでした…。
さて、こうしていよいよ書店に並ぶことになった訳ですが、次はAmazonのクセがわからず振り回され、孤独の中でnoteと出会うことになり…。
そのお話はまた次の回でお伝えしようと思います。
今回も長文にお付き合いいただき、ありがとうございました!
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