序 地下鉄神保町駅は、都営新宿線と東京メトロ半蔵門線の両線が乗り入れている駅で、ちょうど隣の駅である九段下駅もまた両線が乗り入れている。こうした駅が珍しいのかはわからないが、日頃より同じ地下鉄に乗り、決まったルートでしか電車を利用しない私にとっては、おもしろい構造である。 神保町駅のA5番出口から左方向に歩き、信号があるのでそれを渡ると、坂に差し掛かる。両側に飲食店やマッサージ店を構えるその坂を、下から上にほんの少し歩みを進めると道路に突き当たるから、そこを更に左折する
『墨東奇譚』において,女性は,私娼窟の女と特にお雪の存在が挙げられる。まず,永井荷風は,この私娼窟をどのような認識で捉えていたかについてだが,これは玉ノ井のトポロジーに則って考え,「大江匡(=荷風)が平素,居にしているところから離れた”別世界“」ということが出来る。ここで私は,この玉ノ井に居住している私娼をも別世界の住人であり,俗世(=作家荷風の本拠地)に飽き飽きしていた荷風にとって,いわば渇望するものであったといいたい。つまり,多くの俗世の男性にとって,玉ノ井は風俗街として