最初のケアマネがハズレだった件
2019年の2月、母はパーキンソン症状の強いレビー小体型認知症と診断された。
最初のケアマネは母の友人の友人だった。
レビー小体型認知症の診断がついた始めの頃、母は頑なに私が関わることを拒み、介護申請などの手続きも私が全く知らないまま進んでいた。まあ、自分で決めたのだから良いだろうと思ったし介護保険の仕組みもさっぱり分かず、何かおかしいと感じながら放っておいた。
2年目に入った頃から母は家事が思うようにできなくなり、会うたびに家事が辛いと言うようになり、叔母の負担が増えていった。
何とかケアマネと連絡が付いたのは2年目の夏。向こうから電話があった。電話の女性には、ちょっと違和感があった。
「困ってたんですよ、ご連絡ついて、よかったです!娘さんにお会いしたいと言っても忙しいからって、仰って。」
ん?緊急連絡先とか聞いてない?
「お母さま、思ってらっしゃるより、ずっと悪いですよ。このままでは、たいっへんなことになりますよー」
週1で会ってるけど、それより悪いのか。
「先週お話しして、ご理解頂いても、次お会いすると、全然、違うこと仰るんですよー。もう困っちゃって。」
それが認知症じゃないのかな。
ケアマネ訪問に同席して話を聞きたいと伝えたものの、はっきり日時は伝えてくれなかった。
その後何度も電話が掛かって来るようになったが、毎度、「お母様ねー思ってらっしゃるより、ずっと悪いですよ~。このままでは大変なことになりますよ」から始まり母が頑固で言う事を聞かないだの、言う事が毎回変わるだの、つまりは母についてのクレームを聞かされ、私が謝って「娘さんからもよく言って下さい」で終わった。
やっと対面したのは介護認定調査の時。ひらひらした衣装で指には大振りの指輪、フルメイクにイヤリングとバブリーな出で立ちの湯婆婆のような人物が香水の香りを纏って現れた。こちらはジャージにスウェットだ。聞けばバブル崩壊の時に真っ先に倒産した大手証券会社に務めていたそうだ。
担当している誰それさんにこんな事をしてあげたら凄く喜ばれたとか、股関節具合が悪いけどこんなに頑張って仕事している大変なんです、というような話を延々と聞かされた。
母の足元が覚束なくなった頃
「格好つけて登山のストックなんてついてる場合じゃないですよ。道路側に転んで事故にでもなったら」
危ないです、と言うのかと思ったら
「迷惑なんです」
「はあ、うちの母は歩いてるだけで迷惑ですか」
だから老人車(手押し車?)をレンタルしろという話だった。この人は誰の味方なんだ。
結局、新しい道具の使い方を覚えることはできず、この老人車は最後まで玄関に放置されていた。
ヘルパーさんが来るのに自分で掃除をしてしまう、説明しても覚えていない、誤解している、Kさんに何度も電話して今日何をするのか分からないと言う、デイサービスの時間を間違える、男のヘルパーさんは嫌だと言った、そんな件で電話が掛かって来た。そういう病気だから介護サービスを利用してるはずだ。
そのたびに謝り続けて、悲しくなったり、腹が立ったり。延々と続く手柄話を聞かされて無駄になっていく時間に溜息が出た。
叔母にもヘルパーがやる家事に手を出さないようにと電話があった。
母に「あのケアマネ嫌な感じだから変えようか」というと「あの人はこの町内のボスだから怒らせると大変なことになる」と言う。介護サービスで来てくれる人たちを町内会のボランティアだと思っていた。紹介してくれた友人にも気兼ねがあっただろう。
何度もやり取りするうちに分かったのは、ケアマネは母からの聞き取りではなくて母の友人Kさんからの情報で動いていた。ケアマネが叔母が、こう言っていたという話も辻褄が合わないことがあった。
Kさんに電話して、母におかしなことがあったら、ケアマネではなく直接、私に知らせて欲しいと丁重にお願いした。
突然、ホームの入所を勧められたこともある。いつかは、と考えてはいたが、まだ具体的に検討までは始めていない時期だった。「もうねえ、自宅でお二人で生活するのは無理なんですよ。娘さんが思ってるより、ずっと悪いんですよ」
ギリギリまでは自宅で過ごさせたいと伝えてあるのに何を突然言い出すんだと思ったら新しくオープンする施設があるからそこに入れという話だった。いづれ施設に入ることになったら私と弟の家の近くの施設を探すと伝えると
「そうなると私の手を離れますね。お母様、Kさんとも会えなくなってしまいますよ。それで良いんですか?」
と機嫌を損ねたようだった。Kさんが面倒見てくれるわけじゃない。
その頃、問題になり始めた父の便漏れのことも誰にも話していないのに伝わっていた。母がKさんに愚痴ったのを伝え聞いたと思われる。
「弄便というのはねえ、大変なことになりますよ。まずは外でやってないか突き止めないと行けないです!」と電話があった。
しばらくして叔母が電話してきた。
「Kさんに聞いたんだけどね、ケアマネさん、近所の喫茶店に行って、そこのお客さんにJさん(父)がそのへんにウンチを擦り付けてるのを見てないか、もし現場を押さえたらすぐに電話してくれって言ったらしいの。もう悲しくなっちゃって」
は?あり得ない。そんなことを頼んだ覚えも、了承した覚えもない。家族も、父のプライドを考慮してどう向き合ったらいいか悩んでいるところだった。いきなり、それはないだろう。守秘義務はどうなってる?
(今になって思えば、叔母が聞いたKさんの話も何処まで本当か分からない。全て高齢者の伝聞情報で事が動いていた)
電話を切って、しばらく怒りの矛先をどこに向けようか考えた後、包括センターに電話をして事情を説明した。ケアマネを変えることを勧められたので、お願いするとテキパキと事を進めてくれた。新しいケアマネさんは私と同世代の感じ良い人で過不足なくプロらしく手続きを進めてくれた。父の便漏れの件も「よくある事です。大丈夫ですよ、しばらく観察して対処のしかたを考えます」と言ってくれた。安心した。
と思ったら件のKさんから電話が掛かって来た。「あんなに一生懸命やってる人をどうしてクビにしちゃうの。若い人ならやらないことまで親身になってやってくれる人なのよ」
若い人なら、やらないことまでやってしまうのが駄目なのだと思ったけれど、私と合わないのでとだけ答えて終わろうと思ったのに、責められ続けて、つい
「守秘義務違反があったんです」
と言うと物凄い反論がやってきた。そもそもの守秘義務を理解していないので話にならないまま1時間以上、説教を聞く羽目になった。叔母にも電話が掛かってきたらしいが、叔母は「若い人の考えは分からないわね」
と私に擦り付けちゃってごめんね、ということだった。賢い。
これまで沢山の介護関係の方にお世話になっているけれど、いたずらに介護者の不安を煽ったり、頼んでもいないことを押し付けたり、手柄話を延々として時間を無駄にする人は誰もいない。皆、親身になって相談にのってくれるし、本当にありがたい存在だ。最初から普通の、ちゃんとしたケアマネさんだったら、あの数年間はもう少し楽だったんじゃないかと思う。