自分の世界に帰る
父の遺骨は海洋散骨をすることにした。弟と相談して決めた。生前の父は自分の遺骨は梓川と奥穂高岳の頂上に撒いてくれと言っていたが、それは違法になってしまう。釣りも大好きだったから良いだろう。
散骨式の日はあいにくの悪天候で、前日に業者から延期の連絡が入った。
1日ぽっかり予定が空いてしまった。何をしよう。
映画を観に行くことにした。
リバイバル69。旧いロックが好きなので。上映館はファッションビルの中にある。20代の頃にワクワクしながらよく行った場所。
久しぶりの街は沢山の人がいて活気に満ちていた。
ビルの中に入ると若い子たちがいっぱい。おしゃれして綺麗にお化粧して、みんな活き活きしている。あー、なんか嬉しい!
長い間、高齢者ばかりの中に居すぎた。衰えた親を見守りながら自分の未来も希望的に見られなくなっていた。過去のことばかり考えていた。
楽しげな若い人混みの中を歩いていると、だんだん楽しくなってきた。若いキラキラしたエネルギーに囲まれて、心がふわふわしてくる。世界には楽しいことがいっぱい!
映画も期待通り楽しかった。往年の大スターたちが孫ほどの年代の聴衆を湧かせ、若いミュージシャンが大先輩に敬意を払いつつ、それぞれのキャリアの転機を掴んでいく。ジムモリソンの声も聴けた。
映画館を出ると何だか心が軽くなっていた。穴蔵から、やっと陽の下に出てきた気分。
そうそう、ここが私が元いた所。楽しいことをしよう。音楽を聴いて、映画を観て、本を読んで、外に出て、友達とおしゃべりして楽しい生活をしよう。
親のことばかり考えるは、やめよう。
私の人生だって限りがある。