海洋散骨は大荒れ
当初10月始めの予定だった散骨式が悪天候で延期になった。
今週末は天気も良さそうということでビールも日本語も用意して、BGMにアラビアのロレンスのテーマもスマホにダウンロードした。
海辺の民宿にランチの予約もした。準備万端。
ところが前日になって葬儀屋から連絡があった。
天気はいいけれど風が強く、波が高い予報になっているので、中止にするか、予定よりも近場の海域にするかになるという。
延期を勧められたけれど、次の予定は11月。また天候が悪くて延期になると、どんどん寒くなってしまう。また予定を合わせるのも大変だ。
ということで弟と相談して決行することになった。酔い止めを用意するように葬儀屋さんに言われた。
いまいちなランチをのんびり取って外に出ると、ぶんっと持って行かれそうな風。
待ち合わせの船着き場に着くと、思ったよりも大きい釣り船でキャビンもあるし大丈夫そうじゃない?とそれぞれ救命胴衣を身に着けて乗船。
「お!なんと伯父さん、だしパックになっちゃったか!」
粉骨された父の遺骨は水に溶ける紙パックに入っていた。
「このままポイっとまくんですか?」
「ご希望でしたら袋を破って撒いて頂いても大丈夫です」
「でもねえ、この風だと全身、伯父さんまみれになっちゃうねえ」
いざ出航。
揺れる揺れる。ジェットコースターとバイキングが一緒になったような上昇と下降、突然来る横揺れ。いや、意外と楽しい。
ガハガハ大笑いで楽しむ大人たちに挟まれて小さい姪と甥は硬い表情だ。
「では、この辺りで散骨式を執り行わせて頂きます。安全のため3名様ずつデッキにお出でください」
弟家族からデッキに出る。子どもたちが、転がらないかヒヤヒヤしながら見守る。
私の番が来た。
小さなだしパックみたいな父の遺骨を斜め上に思い切り投げた。
青空をバックに風に運ばれて、綺麗な弧を描いて海面に吸い込まれていった。「パパ、ありがとうね」と手を合わせる。
アラビアのロレンスが風と波の音にかき消されながらも、かすかに耳に届いていた。
ビールも日本酒も凄い勢いで風に流されていく。
「親父らしい式だね。せっかちだったし。おい、もう行くぞ、っていう感じで」と弟が言う。
「一生忘れないし、語り草ができたしね」
「そうね。ドタバタして、みんなが笑ってて、湿っぽくなくて」
遠くに、子ども頃、よく海水浴に訪れた島が見える。
肉体の牢獄から解き放たれた父は、すっかり自由になった。
それぞれが思い思いに父に別れを告げて、散骨式は終わった。
「いやあ、過去いち荒れた散骨でした」と船頭さん。
船から降りても、身体がふわんふわんして、目が回っていた。
何だか、とても疲れた。
帰宅してソファに転がって休んでいると、叔母からLINEが届いた。
「頂いたお金で、前から欲しかった自転車を買いました。MとYが一緒に選んでくれました。ありがとう」
これまでのお礼に、父に約束したから受け取ってねと、お金を少し贈ったのだ。自転車を買ったとは、なんとタフな80歳。