【Face to Face】一水四見
立場によって見え方が異なることは当然であるという「一水四見」という考え方に立って、同じ方向へ向かう見方を共有することが重要である。
明けましておめでとうございます。2025年は巳年です。「巳」という字は、語源では「蛇」を模した字だとされているので、十二支で動物を当てはめる場合は、自然に「蛇」になったようです。蛇は古くから信仰の対象として扱われてきた神聖な生き物だと言われています。また、蛇が冬眠から覚め活発に動く様や皮を脱ぎ捨てて生まれ変わるようなところから、復活と再生を意味するそうです。その中でも、2025年の「巳年」は、60年に一度巡ってくる「乙巳(きのと・み)」の年だそうです。それでは、その「乙巳」の年はどのような特徴があると考えられているのでしょうか。まずは、古いものを捨て新しいものを生み出す「変化と革新」の年。二つ目には、様々なものが大きく成長し発展していく「成長と発展」の年。そして三つ目には、新しいことを始めるチャンスがたくさん巡ってくる「チャンス」の年だそうです。そのような年への期待感の現れとも受け取れるように、サントリーホールディングスや日立製作所では、社長の交代を発表しました。若い世代の新しい社長が、「乙巳」の2025年を引っ張っていくことに期待したいと思います。
●真のプロとは
サントリーホールディングスの社長交代が発表される少し前の日経ビジネスオンラインに、「新波剛史の『一水私見』」というシリーズ記事が載っていました。その記事の中で、「プロというのはどうしても自分の世界がすべてだと思いがちなのです。真のプロに求められているのは、『顧客に必要なもの』であるのに、顧客を見ているようで、実は顧客目線では見えなくなってしまうんですね」「一水四見と言うんでしょうか。同じ顧客でもぱっと見たときと角度を変えて見たときは違います。真剣に横から見たり、後ろから見たりしながら考える。そうすることで異なる解が浮かび上がってくるんです」と仰っていました。私が仕事を始めた頃は、先輩からその道のプロになれと言われました。その道とは、自分が担当している業務や業界についてのことです。そういった道に詳しく、その道のことは全て知っているということが大切だと教えられました。詳しく知るということは重要なことですが、それはあくまでも知識として身につけたことであり、真に重要なのは、この知識を如何に活かしていくかということです。さらに新波社長は、「ああ、いわゆる何でも分かっているフリをするプロになってはいけないんだな」とも仰っていました。さて、この話の中で出てくる「一水四見(いっすいしけん)」という言葉はどのようなものでしょうか。
●立場によって異なる見え方
「一水四見」は仏教の考え方の中で使われている言葉です。この言葉の意味は「一口に水といっても四つの見方に見える。つまり、同じものでも見る立場や心のもちようによって違うように見えてくる」ということです。仏教の中では、まったく同じ水であっても、天人は宝石、人間は水、餓鬼は苦しみの火、魚は自分の家と、それぞれの生きている立場によって4通りに異なって見るということを示しています。この言葉は、立場によって様々に見えるからと言って、どのようにしなさいと言っているものではありません。このようなことが世の中の常であることを認識するべきだと言っています。少し踏み込んで言うならば、立場で見え方が異なると認識した上で、認識できた人が、どうするかを自ら考え行動すべきだと言っていると思います。
●様々な見え方の理解
私たちが仕事や生活をしている中では、「一水四見」の言葉の通り、全ての人が同じ考えではなく、様々な考え方を持って過ごしています。このような状況であっても、チームとして活動していくためには、いずれかの考え方に沿って進めていく必要があります。私が子供の頃は、見方や考え方は同じでなくてはいけないように教えられたように思います。そこには普通の見方、普通の考え方というものがあり、そのようでないと異常だと考えられていたと思います。そのような状況だったので、異常だと思われる様々なものが排除されていたような気がします。現在では様々な見方、様々な考え方があることは認識されるようになったと考えられます。ダイバーシティという言葉が示すように、様々な見方、様々な考え方を理解するという時代になってきました。
●「偏見」とぴしゃり~ときの首相夫人~
2024年12月19日の日経新聞の「春秋」に興味ある内容が載っていました。「いまから10年前、ある自動車メーカーが記者会見で農家向けの軽トラをお披露目した。会場に招かれた女性農家を前に担当者が『きれいな人たちばかりでびっくりした』と発言。特別ゲストがそれに鋭く反応し、『偏見』とぴしゃり。ときの首相夫人、安倍昭恵さんだ。」という内容です。その内容の後には、「メーカーの担当者は女性たちを持ち上げたいと思っただけで、おそらく他意はない。だが昭恵さんはそこに潜む先入観を感じ取ったのだろう。」と記載されていました。この中で登場する担当者は何を感じて発した言葉なのか、その言葉を聞いた首相夫人はどのように感じたのかは、女性農家の見え方が両者で異なっていたのだと思います。私たちは物事を見たり経験したりした際に、これまでの自分自身の見聞や経験に照らし合わせて評価し判断します。同じ状況を見たとしても、見た人の立場や経験によって様々な見え方をするということを認識しておく必要があります。
●重要なのは自分自身の見方
サントリーホールディングスの新浪社長の記事のシリーズタイトルには、「一水私見」という言葉が使われています。「一水私見」は一般的に使われる言葉ではなく、造語だと思います。「いっすいしけん」という読み方は同じですが、「四見」を「私見」と表現しているところが重要だと思います。「一水四見」は、同じ水であっても見る立場や心のもちようによって違うように見えてくるということを言っています。立場によって見え方が異なることは当然あると思います。しかし、ビジネスや生活の中で、見え方が異なることで解釈がバラバラになってしまっては不都合が生じます。全員を同じ方向へ向かわせるためには、リーダがどのように考えているのかをしっかりと示していく必要があります。その時にリーダはバラバラに見えていた水を「このように見ている」という方向性を示すことが「一水私見」だと思います。リーダの意思を示す言葉ではありますが、重要なのはチーム全員に如何に理解してもらうようにするかという行動です。「何故、そのように見たのか」「そのように見ることでどのようなことが起こるのか」を丁寧に説明し納得感を得るという行為が、もっと重要だと思います。くしくも日立製作所の新社長発表の報道機関向け説明会の中でも、「一水私見」に相当することが語られていました。新社長は様々な分野を担当されて、さらに、それぞれの分野の方々と良好なコミュニケーションを取ってビジネスを推進されてきたとのことです。そういったところから、グループ28万人の社員の考えていることは異なっていたとしても、「技術による社会への貢献」という企業としての存在意義は普遍であり、お互いが共感し合うことが重要であると、自ら述べられていました。「一水私見」が重要だとしても、「一水四見」という考え方がベースにあるということを理解しておく必要があります。
●皆さんはどのように見える?
「一水四見」を示すような写真を探し出すのが難しかったので、水に関連する写真を複数枚掲載しました。トップ写真は、深い青色に包まれたブルーモーメントと呼ばれる現象(夜明け前と夕焼けの後のわずかな隙に訪れる、辺り一面が青い光に照らされてみえる現象)の写真です。この時の海の水は普段とは違った神秘的なものになります。
その他に掲載している水に関する写真は、皆さんにはどのように見えるでしょうか。考えてみてください