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【Face to Face】先を見る
剪定という作業は、単に枝を揃えることではなく、その木の将来を想像して枝を切ることである。私たちが人や仕事の先を見る行為と同じである。
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大寒が過ぎ、1月が終わると立春が訪れます。大寒は1年で最も寒い時期として知られています。大寒や立春という言葉は、四季・気候などの視点で地球上の1年を仕分ける方法である二十四節気(にじゅうしせっき)の中で使われている呼び名です。1年を春夏秋冬の4つの季節に分け、さらにそれぞれを6つに分け、それぞれの期間の特徴を名前で表現したものです。1年をこのように仕分ける方法は、中国で発明されたものです。この仕分けで使われる呼び名は中国の国土にあった季節感を表わした言葉であったので、日本へ伝えられた時から日本で体感する季節感とは合わない名称や時期もありました。このような事情から日本では、基本的には二十四節気を使いながら、そのほかに、土用、八十八夜、入梅、二百十日などの「雑節」と呼ばれる季節の区分けを取り入れたそうです。また、二十四節気と同じように中国から伝わってきた季節を表す呼び名に七十二候(しちじゅうにこう)というものがあります。これは、二十四節気の1つをさらに3つの期間に分けたものですが、日本の気候風土に合うように江戸時代から改訂されて現在は使われているそうです。この季節感を表わす言葉は、日本人の感性を取り入れて、大切に使われていると思います。それでも、地球温暖化の影響で日本の気候が変化してきているので、現在使っている二十四節気や七十二候の言葉も、今後、変化するかもしれません。
●梅の花が咲き出す立春
一言で「春」といっても、二十四節気では6つに表現されています。寒さがやわらぎ、生き物たちが春支度をはじめ、梅の花が咲きウグイスの鳴き声が聞こえてくる「立春」。降る雪が雨へと変わり雪解けがはじまり、昔から農耕をはじめる時期の目安とされる「雨水(うすい)」。久しぶりに感じるポカポカ陽気に土中で冬ごもりをしていた生き物たちが目覚める「啓蟄(けいちつ)」。雀が巣をつくり始め、桜が開花し本格的に春が到来したと感じる「春分」。空は青く澄んで、つばめが飛来し、爽やかな風が吹き清々(すがすが)しい春の息吹を感じる「清明」。田植えの準備がはじまり、植物が緑一色に輝きはじめ沢山の穀物に雨が降り、水分と栄養がため込まれる「穀雨(こくう)」。ちょうど2月に入った頃は、立春にあたるため、暖かな陽ざしを浴びて梅の花が咲き出す頃になります。先日、NHKの「小さな旅」という番組の「特集 彩の四季」で高尾梅郷(たかおばいごう)の梅の木を剪定されている方が登場していました。高尾梅郷は、高尾山で有名な八王子市の高尾にあります。JR高尾駅北口から小仏峠方面へ旧甲州街道沿いの約4.5kmの区間に、8か所の梅林が存在し、約1万本の梅の木が見事な花を咲かせ、東京都の梅の名所になっています。
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番組では、毎年3月初旬に開催される梅まつりに間に合わせるように剪定作業を行っている様子を取り上げていました。この剪定作業を行っている方の言葉が印象に残ったので、そこから今月のキーワードを考えてみました。
●剪定とは将来を見る仕事
「剪定」とは、樹木の枝を切り、形を整え、風通しを良くすることです。番組では、昨年の梅まつりを目ざして、梅の木の形を整えるという作業を行っているところを取材していました。梅の木の剪定には、他の木とは違った特徴があるようです。梅は「花を見ながら、幹を見て、枝を見る」そうです。桜の場合は、花を主に見ることが多いと思いますが、梅は姿そのものを楽しむということのようです。言われてみれば、桜の木は花にばかり目がいって、幹や枝についてあまり関心はありません。しかし、梅は花に関心もありますが、木全体の曲がりくねった幹や枝にも目がいってしまいます。桜は花を如何に見事に見せるかという観点で剪定を行うようですが、梅は花を見事に見せることは当然ですが、2~3年先の姿を考えて剪定を行うそうです。番組に登場されていた方が先輩から教えられた言葉があるとおっしゃっていました。番組で発言されていた言葉に少し言葉を加えて記載しますが、「10年先15年先になって、自分が剪定した木の姿を見た時に、あの時にその枝を切って良かったなと思えるように」という言葉だそうです。でも、実際に枝を切るときにはそのように考えることは難しいとおっしゃっていました。実際に自分が剪定した木を10年後、15年後に見ることができるかは分からないかもしれませんが、この言葉は将来の姿を想像して枝を剪定しなくてはいけないと言っているようです。本当に良かったかどうかではなく、その姿を思い描くことが重要だと言っていると思いました。
●「剪」の本当の意味
「剪定」の「剪」という漢字は、切りそろえるという意味ですが、もともとは「前」がその意味を持っていました。「前」の古代文字(成り立ちの漢字)は、分解すると上部が「止」で下部は「舟」と「刂」が組み合わさってできていました。今では使用されていない漢字のため表示することはできません。もとは、「前」の古い字形は、舟のへさきを揃えて前に進む様子を表す「歬(せん)」だったそうです。やがて「歬」に「刂(刀)」を添えて、現在使っている「前」という漢字が出来上がりました。その頃の「前」には、切りそろえるという意味が当てはめられていましたが、その後、「先に進む」という意味が強くなり、「切りそろえる」という意味は、「前」という漢字にさらに「刀」を加えた「剪」という漢字を作り、受け継がれたようです。そのように考えると、剪定は単に枝をそろえるということではなく、先を見て枝が伸びて(進んで)いけるようにしていくということも含まれているような気がします。先輩の方がおっしゃっていた先の姿を思い描いて枝を切っていくということに繋がると思います。
●梅の木の将来を見る
1月末に高尾梅郷へ行ってきました。まだ剪定作業は行われていませんでしたが、梅の花の蕾は膨らんできていて日当たりのいい場所では既に梅が咲いていました。
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2月には、3月の梅まつりをどのような姿で迎えさせようかと剪定の職人さんが活躍されるだろうと思います。「先を見る」ということは物事の将来を見通したり、見抜いたり、あらかじめ感知したりすることであると言われていますが、剪定においても、梅の木の将来の姿を見通して、どの枝を抜く(切る)ことが必要かを考え、そして、感じ取っていく必要があると思いました。
●高尾梅郷を歩こう
1月下旬の高尾梅郷は、ほとんどの梅の花は蕾で、日当たりの良い場所では少し咲き始めた頃でした。高尾梅郷を歩いてみたので、道順で梅林を紹介します。JR高尾駅北口から甲州街道(国道20号線)を高尾山口駅へ向かって歩きます。旧甲州街道との分岐点では旧甲州街道へ右折せず、少しまっすぐ行くと小仏川沿いに「遊歩道梅林」が見えてきます。
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川沿いを梅の木を見ながら歩いて、小仏関跡方面へ向かうように右折して旧甲州街道へ出ます。そうすると、すぐに小仏関跡が現れます。小仏関所は徳川幕府の甲州道中の重要な関所として設置されたものだそうです。
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この関所跡にも「関所梅林」があります。
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さらに街道を進んでいくと、右手に幼児園が見えてくるので、その手前を右折してJR中央線の高架下を抜けていくと「荒井梅林」に到着します。
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来た道を街道まで戻って少し進んで、小仏川を渡ると高尾天満宮がある「天神梅林」に着きます。
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その後は、梅林を眺めながら川沿いを歩いて、小仏川を渡り街道へ戻ります。しばらく街道を歩くと「高尾梅の郷まちの広場」に到着します。広場にも多くの梅の木が植えられています。
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その後、街道を進んで、「湯の花梅林」、「するさし梅林」と過ぎていき、
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しばらく街道を進んでJR中央線の高架をくぐり抜けたところで右折すると「木下沢(こげざわ)梅林」へ到着します。「木下沢梅林」は例年3月の開花時期に合わせて園内を開放し、紅白に咲き誇る梅をながめながら、園内のトレッキングコースを散策することができるそうです。
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再び街道へ戻り、街道沿いの「小仏梅林」をながめてバスの折り返し地点である小仏へ到着します。
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1月下旬では梅の花は咲いていませんでしたが、
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来月のメッセージでは梅の花が咲いた高尾梅郷を紹介したいと思います。