リメンバー【Face to Face】忠恕
毎月発信していたメッセージを8月から公開するようにしました。公開してみて、ふと昨年の8月はどのようなメッセージを発信していたかなと思い、毎月のメッセージを発信した後に、1年前のメッセージも「リメンバー【Face to Face】」として発信することにします。昨年の8月のメッセージは、「忠恕(ちゅうじょ)」というキーワードでした。ご覧ください。
忠恕(ちゅうじょ)
コロナへの感染防止対策が個人の判断になった状況で、学校が夏休みに入りました。過去3年間の感染防止対策と行動制限によって自由な行動ができなかった反動で、家族連れを中心とした旅行や観光を目的とした人の移動が多くなりました。海外からの観光客もコロナ前の7割まで回復したというニュースを目にするようになりました。各地の観光地も多くの観光客で溢れるような状況になっていることは、経済の活性化という観点では嬉しいように感じます。コロナで停滞していた経済を動かしていく機会も増えてきたのではないでしょうか。コロナでいろいろな規制がかかったことで、コロナ感染を回避する手段が多く適用されてきたと思います。この手段をコロナ後も活かしていくことで新たなビジネスの発展へもつながっていくと思います。私たちの活動をコロナ前へ戻すのではなく、コロナ禍の中に考え出した手段を活かしていくということが必要になってきます。困難な状況に遭遇した時に、人間はそこから脱するために、いろいろな方法を考え出すものです。そうすることで新たな世界を創出することができると思います。多くの犠牲があったかもしれませんが、コロナ禍を乗り切ったことを自信にして、次のステップに進んでいきたいと考えます。
先日、日経ビジネスオンラインに「2040年 仕事のミライ」という特集記事がありました。AIが発達してきた中で、将来の夢を少しずつ考え始めた小学生や中高生にとって、2040年は社会人としてバリバリと働いている時期になります。そのときに備え、どのような道を進めばいいのだろうかという未来の日本を支える子どもたちが描くキャリアを占うというものでした。その記事の中で日立製作所の名誉会長である川村隆さんが、「今の若者たちに伝えたいのは、『もう年寄りにやらせちゃだめだ。自分でやる』という気になれば、日本の若者はかなりやれる」と述べられていました。現在の日本人は海外の国々の人と比較すると、少しおとなしい感じがします。しかし、スポーツ界では決しておとなしいという印象ではなく、多くの日本選手が活躍していて注目を集めていると思います。野球の大谷翔平選手はその代表のように感じます。自分がやってきたことを信じて、挑戦していけば結果がついてくるということを証明しているように思います。小学生や中学生には、このようなスポーツ界の選手の活躍をみて、自分たちもスポーツに限らず世界で活躍することができると考えてほしいと思いました。記事の中で、近代において日本人が目覚ましく頑張った時期が2回あると述べられています。一つは明治維新後の外国に負けない強くて豊かな国を造るために思い切った政策を推し進めた頃、もう一つは、第二次世界大戦後の敗戦国から何とか立ち上がろうと努力した頃です。どちらの時代も30~40歳台の若い世代が中心となって物事を進めてきたことで、日本は大きく成長したと思います。世の中を良くしよう、会社を発展させようという思いは年齢や過去のしがらみとは関係なく、どれくらい「その気」になれるかということだと述べられています。長く経験を積んだベテランが頑張るというより、若い世代の意見を取り入れて若い世代が中心となって実践し、ベテランはそれをサポートすることが肝心だと思います。
この記事の中では、もう一つ興味深い言葉を取り上げられていました。それが「忠恕(ちゅうじょ)」という言葉でした。「忠恕」とは、自分の良心に忠実であることと、他人に対する思いやりが深いことという意味です。「忠恕」という言葉の「忠」について川村さんは一歩進んだ解釈をされていました。「『忠』は覚悟を決めてひたすらに頑張るという意味で、『恕』は思いやりの意味を持つ」と説明されています。「忠」という言葉を単に「良心に忠実である」ということにとどまらず、「覚悟を持って自分自身の信念に忠実であれ」と言っているように感じました。さらに記事の中では、「ただ、成長を遂げたという自負のある日本では『恕』ばかりが重視されるようになってしまった。親から『人に迷惑をかけないようにしなさい』と言われて育った日本人と、『絶対に勝ちなさい』と言われて育った海外の人が、資本主義という同じ土俵で闘うことになるのです」と日本人と海外の人の意識の違いについても述べられていました。私も親からは、「人に迷惑をかけないようにしなさい」とよく言われていたことを思い出しました。そのようなことで、控えめであることが美徳という意識が植え付けられたように思います。それで積極性に欠けていたとすれば、大いに反省しなくてはいけないと思います。また、「成長を遂げたという自負のある日本」という日本人の感覚が、日本の成長を止めているようにも感じます。一時期、世界のトップに立った日本は、トップに立ったことで満足し、その後の努力を怠ったことで経済が停滞してしまったと思います。今、私たちができることは身近なところから少しでも前向きな変化を重ねていくことで、日本の発展へ繋げていくことだと感じました。
この「忠恕」という言葉を好んで使われていた方が他にもいました。日本人が目覚ましく頑張った時期の明治維新前後から活躍した渋沢栄一さんです。渋沢さんの著書「論語と算盤(ソロバン)」の中で、この言葉が多用されているそうです。渋沢さんは「忠」という文字については、「偏り(かたより)のない心」として考えていたようです。「偏りのない心」とは、「いつも公平であれ」ということのようです。公平という言葉は簡単に使いますが、非常に難しいことで、時には公平だと思っていたことが公平ではなくなってしまうことも多々あります。しかし、渋沢さんは少なくとも「公平であろう」「公平に見て(考えて、扱って)あげよう」と、常に思っていたということです。その思いの結果として、生涯で約500の会社や約600の社会事業に関わり、近代日本社会や経済の基礎を築けたのだと思います。そのようなことが採用された理由かは分かりませんが、2024年度に発行される新しい一万円札の図柄の人物に採用されたのだと思います。
渋沢栄一さんの郷土は現在の深谷市です。この深谷市には、渋沢さんの真心と思いやりの精神「忠恕の心」をモットーに品質優先を心掛けてお酒を提供されている173年の歴史がある酒蔵「東白菊(あずましらぎく)、藤橋藤三郎商店」があります。
江戸時代末期から中山道の宿場町だった地の利を活かし、荒川と利根川に挟まれたやや軟水の井戸水にこだわって酒を造り続けてこられています。この酒造のレンガ造り煙突は埼玉県の「景観重要建造物」に指定されています。指定の理由となったのは、大正時代に建造された造り酒屋のレンガ造り煙突が旧宿場町の景観と調和して地域の歴史を伝え、レトロでモダンな深谷市を特徴づける景観を生み出しているということだそうです。
この煉瓦(レンガ)と深谷市は深い縁があります。深谷市出身の渋沢栄一さんが、深谷の土地には煉瓦造りに適した良質な粘土が採れること、利根川から舟で東京方面へ煉瓦の運搬が見込めること等を考えて煉瓦工場の建設を深谷市へ要請したとのことです。そういったことから深谷市には多くの煉瓦作りの建物が存在しています。
機会があれば、「忠恕の心」を大切にしている深谷市を訪問して、歴史ある建物を見学してみては如何でしょうか。深谷市にはレンガ造り煙突がある酒蔵が3ヵ所(藤橋藤三郎商店、滝澤酒造、丸山酒造)存在しています。
因みにトップ写真の酒蔵「東白菊、藤橋藤三郎商店」には、醸香の中にも力強さを持った味わいの「忠恕」と名付けられた日本酒がありますので、味わってみては如何でしょうか。
「忠恕」という言葉は自分の良心に忠実であり、他人に対する思いやりが深いことだと一般的に言われています。しかしながら、その意味の範囲にとどまるのではなく、常に覚悟をもって自分自身の信念に忠実で周りに対しては公平であることが重要だと、渋沢栄一さんや川村隆さんはおっしゃっています。改めて「忠恕」という言葉の意味を深く考えさせられました。
あとがき
2023年7月の写真撮影の時も暑かったのを覚えています。2022年2月に深谷市へ行った時には歩いて「渋沢栄一記念館」へ行きましたが、駅から離れた場所にある「丸山酒造」へは暑さのためタクシーを使ったのを思い出しました。夏の時期の写真撮影は熱中症対策が必要ですね。
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