番外編:嵐の夜の決闘-Chinese Roulette-「紅焼豚肉と海老、皇帝殺手-emperor-killer-」
「紅焼豚肉と海老、皇帝殺手-emperor-killer-」
(この作品は、ぜひ、"Crouching Tiger, Hidden Dragon"より”#"ternal Vow"を聴きながら、お楽しみください。)
嵐の夜。「龍蝦広東饗宴」で、スパイスが舞い、男たちの決闘が繰り広げられる。辛味の高まる闘争が、遠雷の轟音と共に始まる。
壮大なホールの中、重厚な木製の円卓を囲む三人の副料理長。彼らの視線は皆、テーブルの中央に置かれた皿に釘付けだ。その皿には、一見すると普通の紅焼豚肉と海老の料理が盛り付けられている。だが、その見た目に反して、非常に辛いデス・ソースが掛けられており、一口食べれば誰もが顔をゆがめるほどだ。
「ついにこの日が来たな。」と、皇宇が彼らに問う。澄んだ瞳には、火花を散らす男の覚悟が映し出されている。
建國と文山もまた、それぞれの覚悟を胸に、答える。「我らに異存は無い。決着をつけよう。」
ここで行われるのは、次の嵐の夜までの「総」副料理長を決める儀式。これは彼らだけの秘密の闘争、そして名誉を賭けた戦いなのだ。
皇宇がデス・ソースを掲げる。その激しい辛さは、一度味わった者を忘れさせない。「名付けて、紅焼豚肉と海老、四川風暴(Sichuan Storm)だ。」と、彼はニヤリと笑う。
建國が手招きをする。「望むところだ!」
文山がテーブルに手をかけて、勢いよく回す。周囲の緊張感が一気に高まる。皿は回転テーブルの上でガチャガチャと音を立てて暴れ、具材が少しずつ溢れ出す。
その時、文彦が現れる。「何をしている!食材で遊ぶんじゃない!」と彼は怒鳴る。しかし、その言葉は三人には全く届いていないようだ。彼らの視線は皿に釘付けで、誰一人として動くことができない。
文彦は皿を見て、怒りの矛先を皿に向ける。「皿に残っている分は三人で食べきるんだぞ。今日は他にまかない無しだ!そしてその後、店の掃除!いつもの倍はきれいにしろ!」文彦の言葉が響く中、三人は皿に残った「紅焼豚肉と海老、四川風暴(Sichuan Storm)」に挑む。しかし、その辛さは想像以上で、三人ともが苦しみ、悶絶しながら、引き分けとすることに決める。
次の嵐の夜、再び「龍蝦広東饗宴」の舞台で、三人が再び集う。稲光が舞い、雷鳴が轟く中、「ついにこの日が来たな。」と、文山が二人に問う。「我らに異存は無い。決着をつけよう。」と、皇宇が答える。「それで、できたのか?」と、建國が皇宇に迫る。
皇宇が再びデス・ソースを掲げる。「あぁ、あの時のさらに倍の辛さにしてある。」と彼は宣言する。「名付けて、紅焼豚肉と海老、龍怒嘯(Dragon's Fury)だ。」ニヤリと嗤う皇宇。
文山が「望むところだ!」と手招きをする。皇宇はその皿の底に粘着テープを貼り付け、回転テーブルの上に置く。三人は再び円卓の回りに等距離を開けて座る。
建國がテーブルを回す。皿は固定されて動かないものの、その勢いで具材が外へ少し飛び散る。その様子を見ていた麗華が声をあげる。「何してるの!兄達!」
三人は麗華の怒りに直面し、力尽きる。掃除は徹夜と命じられた、翌朝、掃除を終え、目の下に隈を作った三人は、次回こそ決着を、と誓う。
さらに次の嵐の夜、三人は再び「龍蝦広東饗宴」に集まる。凄まじい雨音と風切り音、そして今までに見たことの無い稲光とほぼ同時の怒涛の雷鳴。
「あなた達に決着の場を与えるわ。」と麗華が宣言する。「今宵こそ、はっきりと決着を付けるために、皿は脇に置いとくわ。そしてこれよ。」彼女が注文取りのメモ用紙を1枚ちぎり、何やら書いて裏をぺろっと舐め、回転式テーブルの一端にはりつける。
「これで失態は無しね。さぁ、回すわよ。覚悟はいい?」彼女が三人を眺める。三人は互いを見合い、無言でうなずく。男の勝負に御託は要らないと評しているようだ。
麗華がいきよいよくテーブルを回す。くるくると回るテーブル、すこしづつ回転速度が下がり、緊張が高まる。
その矢先、外出していた文彦が帰ってきた。店の表の扉をあけると、嵐の風がホールに渦を巻く。メモがめくれて、宙に舞い、ひらひらと文彦の元へ。
「これはなんだ?」と文彦が手に取ると、そこにはドクロのマークが描かれている。
文彦が一人、席に座る。麗華が文彦の目の前に皿を置き、「男なら当然完食よ。」と言う。「皇兄、この皿の名前は?」麗華が尋ねると、皇宇が、「紅焼豚肉と海老、皇帝殺手(emperor-killer)」と答える。「さ、パパ、召し上がれ。」
四人が見つめる中、文彦が一口頬張る。しかし、文彦は微動だにせず、何らの反応もしない。皇宇が「そんなはずは無い。ちゃんと入れたんだ。」とレンゲを取り、一口頬張る。皇宇の顔がみるみる赤くなり、効いたことの無い大きな悲鳴をあげる。
麗華は文彦を見る。すると、文彦の顔もみるみる赤くなり、彼もまた断末魔の叫びをあげる。麗華、建國、文山の三人はのたうち回りやがて静かになる二人を為すすべなく見守る。
二人の屍が転がる。残った三人は二人に手を合わせる。外はいつの間にか嵐が収まっていた。月の明かりが「龍蝦広東饗宴」を照らしていた。建國、文山、麗華の三人は静かに立ち上がり、二人の遺体に向かって深々と頭を下げる。
次の嵐の夜、次の「龍蝦広東饗宴」で、また新たな決闘が繰り広げられるだ
ろう。それは変わらぬ流れ、決まりきった宿命とも言えるだろう。
しかし、それはまた彼らが共に過ごす時間、料理という情熱を共有する場でもある。互いに切磋琢磨し、時には戦い、時には分かち合い、そしてまた新たな日を迎える。それこそが、彼らが「龍蝦広東饗宴」を愛し、誇りに思う理由なのかもしれない。
そして、物語はまた続く。次の嵐、次の決闘、そして次の「龍蝦広東饗宴」へ。
レシピ:
在要路して、それぞれ四川変化のハバネロソース小さじ1を以下に変更してください。
作り方はみな一緒です。
紅焼豚肉と海老、四川風暴(Sichuan Storm):デスソース小さじ1
紅焼豚肉と海老、龍怒嘯(Dragon's Fury):デスソース小さじ2
紅焼豚肉と海老、皇帝殺手(emperor-killer):デスソース小さじ4