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鏡の中の音楽室 (20)

第二部 非常識塾長

第6章 二人の出会い ①


さくら、まゆ、壮太の三人が広春の思い出話を真剣に聞いていた。
 
「これが古中松北小学校の東校舎と西校舎の高さが違う理由なんだよ。東校舎と西校舎の高さが1階分違うのは僕と当時の友達が関係しているんだよ。結局、西校舎を1階分あげれば電磁波の影響を受けずに済むという検証結果が出たので、西校舎を1階分コンクリートであげて、その外見部分は自然な感じで土と芝生でなだらかな傾斜にしたんだよ」
 
広春が自慢げにそういうと、すかさずさくらは両手の人差し指を交差させて、広春の方に向けて言った。
 
「塾長先生!嘘はダメですよ。そんなオカルトと科学を混ぜたような話!誰が信じるもんですか!どうせバンボンにでも作ってもらったんでしょ!だって学校は尾島山のふもとにあるんだから、高さが違うのって当たり前じゃないですか」
 
さくらがそういうと、それに合わせてまゆが口をはさむ。
 
「そうそう!いくら塾長先生の頭がよかったっていっても、小学5年生の普通の男子が校舎の建設に口出しできるはずないじゃないですか。それに、そんなことが本当だったら、新聞やテレビで報道されているはずですよ」
 
その言葉に、壮太が憤慨して、右腕を伸ばして、人差し指を立ててワイパーのように左右に振りながら言った。
 
「いいか。お前ら!塾長先生はマジでいろんな経験をしてきているんだぞ。それこそ非日常、非常識な経験をたくさんしてきているんだ。昨日今日、塾に来たお前らなんかにはわからないだろうけど!」
 
壮太の本気の訴えに広春は両手の平を体の前にもってきて、両手を「抑えて、抑えて」というように上下に動かしながら言った。
 
「まぁまぁ。いつもそうなんだけど、信じてもらえないのが普通なんだよ。壮太!まぁ落ち着け!トランキーロやで!トランキーロ!僕が経験した話の中には、すぐにみんなが信用してくれるような話題なんて無いんやから。さくらもまゆもそのうち信用してくれるようになるって」
 
そういいながら、広春はそのトランキーロの両手を壮太の両肩に載せてポンポンとたたいた。
 
「で、塾長先生はなんでうちのおじいちゃんと仲がいいんですか?」
 
とさくらが不思議そうに広春に尋ねた。
 
「そうだなぁ。最初から仲が良かったってわけじゃなかったけど、安達先生は昔から僕の言うことを信じてくれるし、僕も安達先生を信頼しているんだ。」
 
広春はいったん話すのを止めて、右斜め上の遠くを見つめながら続けた。
 
「安達先生と最初にかかわったのはねぇ。あれは忘れもしない僕が中学1年の時の音楽の授業でのある事件がきっかけだったかなぁ。そうだ、とりあえず『カンチョー事件』と呼んでおくな。あの時、安達勇先生と初めて話したというか、かなり叱られたんだよ。まぁ素行が悪かった僕はいろんな先生に叱られることが日常茶飯事だったんだけど、その中でも安達勇先生の怖さは別格だったよ」
 
そう言って広春は目線を天井からさくらたち3人に移して続ける。
 
「なに、なに。その変な名前の事件!絶対壮太が好きそう!」
 
とまゆが囃し立てると、それに対し憤ろうとする壮太の方に手を置いて広春は話を続ける。
 
「けどね、そんなにみんなが創造するような笑える事件じゃないんだよ。じゃあ『カンチョー事件』について話しておこう。あれは僕が中学1年生の時、音楽の授業を担当してくれていたのが、大学卒の新任で入ってきた熊山博美という女性の先生だったんだ。で、先生が新任だということでみんなになめられていて、先生の音楽の授業はどのクラスもいつもあれてたんだ。例えば、授業の進行を無視して好き勝手やったり、隣の席の子たちと大声で話したり、音楽室がいつもの教室から離れているから、少々騒いでもほかの先生が気づきにくかったのもあったんだと思うんだ。普通の教室だと隣のクラスの授業担当の先生に気づかれるからね。それで、熊山先生も毎回毎回大きな声で注意するんだけど、それでもみんな無視したり騒いでたりしたんだ。」
 
そういうと、さくらとまゆが怒った表情で広春を問い詰める。
 
「それで塾長先生もみんなと同じように、率先して授業を妨害していたんですか?」
「さっき、塾長先生が自分から素行が悪かったって言ってたから、さくらの言う通り、塾長先生が率先して授業を妨害して安達先生にしかられたんでしょ?」
 
広春は二人にいきなり犯人扱いされて驚いた表情を見せたが、照れくさそうな表情を浮かべながら続けた。
 
「いや、むしろ逆で・・・僕は熊山先生の授業を真面目に受けてたんだよね。僕は、物心ついたときにはなぜか眼鏡をかけている女の人が好みのタイプで、熊山先生も眼鏡をかけてたから本能的に気に入られたかったんだよね。だから、みんなと同じようなことをすると目立たないって思って、逆にまじめに授業を受けていたんだ」
 
ここで壮太が口をはさむ。
 
「おい!お前ら!先生の眼鏡女子好きは、塾生ならみんな知ってるから覚えておいた方がいいぞ。昔、ケータイ屋さんで風船を配っているときに、先生が眼鏡の絵を描いた風船を選んだのを塾生の先輩方が目撃したという例もあるんだぜ」
 
その言葉を聞いて大笑いしながら広春は続けた。
 
「壮太!その話は全く嘘ってわけじゃないけれど、そういうことでメガネのデザインの風船を選んだんじゃないから。家に帰ってちょっとイタズラしようと思って選んだんであって、風船は好みのタイプではないからな。そんなことは一切ないから。さぁ話を戻すぞ!」

そういって広春は盛り上がった3人を落ち着かせながら話をつづけた。

「そしてある時、いろんなクラスで音楽の授業が荒れているということが問題になって、各クラスで話し合いがもたれてたんだ。他のクラスの授業はそれから改善されたんだけど、僕のクラスの担任の坪田先生も大卒の新人だったんだよね。それでみんなやっぱり舐めてたというか改善されなかったんだ。
また『カンチョー事件』の起こった日も相変わらず、みんなが授業の妨害してたんだよ。それで熊山先生がピアノに突っ伏して大泣きし始めて、しばらくしてみんなが先生の号泣にひいちゃってどんどん静かになっていったんだ。それで、シーンってなった時に先生がスクっと立って、『そんなに私の授業を受けたくなかったらみんな出てきなさい!』って泣きながら叫んだんだよね。その時みんなやりすぎたって雰囲気になったんだ。けれど、その静まり返っていた状況の中、先生がそう言い終わるかどうかの場面で僕の後ろの席にいた山下っていうやつが、僕の椅子の隙間から足先をね、お尻にブスと突き刺す感じでいわゆるカンチョーされて、驚いたのと嫌な感じがしたので、僕はちょっと腰を動かしたんだよね。先生が僕のその少し腰を浮かした動きを見て、いつもまじめに受けている横平が、みんなが反省している場面で『横平おまえもか!!』って感じになったんだよね、たぶん。そして、泣きながら音楽室から走って出て行ったんだよ。その後、僕はそのいたずらをした山下と、とっつかみ合いのけんかになっていたんだ。そこへ安達先生が入ってきて、僕は耳を引っ張られて職員室に連れて行かれたんだ。連れていかれる間も僕は必死で『山下のせい』だと訴えたんだよ。けれど、熊山先生は『いや、そういう素振りなかった。横平君は明らかに私の目を見ながら立とうとしました』と職員室でそこにいる先生みんなに聞こえるように訴えたんだ」
 
それを聞いて、さくらたち3人は許せないという怒った表情を浮かべながらお互いを見て、その後広春のほうに顔をむけた。


第6章 二人の出会い ➀
タイトル画像は「Bing Image Creator」が作成しました。


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第6章 二人の出会い ②

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