人間観察
最近、釣り好きの人と友達になった。
私は山育ちのためか、磯の香りや魚の形があまり得意ではない。
始め、きっとその釣り好きとは気が合わないだろうと思っていた。
だけど、どうして釣りが好きなのか、気になってしまい色々とお話を聞いてみたくなった。
意外にもその人は、釣りが好きなのに磯の香りが好きでもなく、魚の見た目が好きでもないらしかった。
海(匂いとか魚の形とか近くの虫とか)は得意ではないけど、「釣れた瞬間の喜び」を味わうために釣りをしている、と言っていた。
ある意味本当の「釣り(だけ)好き」の人だった。
先日、その釣り好きとお洒落な喫茶店に入った。
「昨日釣ったヒラメ、目の位置がキモくて…」
そういいながらその人は釣ったヒラメの写真を見せてくれた。
「うわ!黒!デカ!キモッ!エグッ!」
お洒落な喫茶店でえぐいヒラメを見せてもらった。
ヒラメの隣には煙草が置かれていた。
メジャーなどサイズを測るものがない時、代わりになるものを隣に置く。釣り人あるあるらしい。
そのヒラメは黒々しく、そして人間からすると近すぎる位置に目玉が並んでいた。
友人は「釣れた瞬間」だけ楽しむ人なので、ヒラメを欲しい人に聞いて血抜きしてあげたとのことだった。
ここまで聞いて、やっぱり海の世界は得意じゃないと思った。だけど、あのヒラメの目が忘れられなかった。
後日、もう一度あのヒラメの写真が見たくなって写真をもらった。(どうせえぐいのに。)
もう一度見てもやっぱりえぐかった。
せっかくなので絵に描いた。
ヒラメみたいに口をへの字にしながらなんとか描いた。
生きてるのか死んでるのか分からなかったけど、目ヂカラに命を感じた。
(後に聞いてみたところ、写真を撮った頃はまだしっかり生きていた)
相変わらず(エグッ)と思いながら観察していると、ヒラメの瞳が何か語りかけているように見えてきた。
「アー、オワッタナ、テイウカ、ナニコイツラ…キモッ…エグッ…」
きっとあのヒラメも、ニンゲン達のことをキモッエグッって思いながら死んでいったのではないだろうか。
ギョロッとした目がそう言っているように見えた。
あのヒラメはきっともう誰かの胃袋の中にいるのだろう。
なんとなく、「ごちそうさま」って言ってあげて欲しいと思った。