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「10 -第三部-」 13話

【罰を望む】

ノゼ家にて、ルリは姉のシルビアとヤドの公表について話をしていた。

「それはまた。大胆なことを思いついたな」
「ですが、やる価値はあると思います。期間は1年。今のヤドが任期を終える前に決着をつけます」

ルリは真剣だ。その気持ちをむげにできるようなシルビアではない。

「わかった。すぐ議会に向かおう」
「ありがとうございます!」

数日前まで疲れ切っていた弟の力に満ちた声に、シルビアも力が湧く。

「しかし、よくこんな方法を思いついたな」
「教えてもらったんです。自分だけ綺麗で安全なところから考えているんじゃないのかと」
「そうか。お前はよい仲間を持ったな」

「はい!」と答えるルリは、無邪気な子供のようだった。


「と言うわけで、シキさん、協力をお願いしたいんですが………」

同じ頃。ソラはシキのもとを訪ねていた。

「そりゃまた、面白いことを思いついたもんだね」
「はい。さすがルリです」

ソラはなぜか幼馴染を自慢する顔になっている。

「まあ私ももうすぐ定年だ。諜報部なんて華のない仕事の集大成には、ちょうどいいかもしれないね。いいよ。やってやろう」
「ありがとうございます!」

ソラの全力のお辞儀に気をよくしたシキは、ちょっとイジワルをしてやろうとソラをからかう。

「しかしアンタ、昇進の話も出てたのにこれが失敗したら全部パアなんじゃないかい」
「ちょ!なんで知ってるんですか!いいんです!昇進はあくまで手段ですから」
「おや、頼もしい。じゃあアンタにもいっちょ働いてもらおうかね」

ニヤリと笑うシキに、「もちろんです!」とソラは思いっきり胸を叩いた。


一方トーカはジンに話をしに行っていた。

「今回の作戦で一番混乱が起こるのは貧民街だろう。うちの組織や軍も警戒を怠らないようにするが、ジンも注意しておいてくれ」
「うちのヤツらは大丈夫。元不良と元悪党の集まりだからね。そんなにヤワじゃないよ」

軽い雰囲気で返事するジンに「頼もしいよ」とトーカは笑う。

「なんだったら、うちの2号店3号店出すのに協力してよ。貧民街の子供全員うちに入れば、貧民街で悪事を働くヤツがこれ以上増えないだろ。治安が良くなると思うよ」

壮大なプランと鮮やかな営業トークに、トーカは思わず苦笑する。
「そうだな。考えとくよ」と返事をすれば、「ぜひに〜」と満面の営業スマイルを返された。


教会の一室。幹部しか入れない部屋にヒスイはやってきた。

「なぜ君がここにいるんですか」

部屋の中にいたシムトに興味なさげな声をかけられる。

「ロウさんに連れてきてもらった。どうしてもお前と話をしたくて」

静かに扉を閉め、ヒスイは椅子に座るシムトのそばまでやってきた。

「君が私に?珍しいこともあったものですね」
「俺たちはこれから、ヤドと地上のことを公表するために動き出す。ヤドを解放するために」

シムトにやっと反応があった。

「……そんなこと、できるわけないでしょう。争いが起きますよ」
「混乱をできるだけ起こさないようにするつもりだ。そのために俺はここに来た」

気だるげな目がヒスイを捉える。7年前の地上でのできごと以来、シムトは心の大事なところが抜け落ちてしまったように見える。

「お前は本当は何を望んでいるんだ?」

空っぽな目に問いかける。瞳の奥に少しの揺らぎが見えた。

「………ヤドの機械の開発者は3人いました」

シムトは視線を逸らして独り言のように語り出した。

「1人は君も知ってる通り、教会から逃げ出し君達の組織を作りました。もう1人は罪の意識に耐えられず自ら命を断ちました」

ヒスイが息をのむ。知らなかった事実だ。

「残った私の先祖は、動き出したヤドのシステムを止めることもできずヤドに全てを捧げました。ヤドを次々生み出しながら、いつかヤドに殺してもらうことを夢見ていた。まるで狂気の沙汰です」

シムトは自嘲するような笑いを浮かべる。

「私の先代も、先々代も、最後は気が触れて死にました。それを見てきて思ったのです。どうせ最後に気が狂うなら、はなから頭がおかしければいいと」

狂人と言われたシムトの心は、ヤドを生み出し続ける一族の重荷に耐えきれず壊れたものだった。

「君の首をヤドに捧げれば、私はヤドに殺してもらえるかもしれない。一族の悲願を達成できるかもしれない。でも結果は、ヤドは私のことなど気にもかけず、君を守ることしか考えていませんでした。そこで私の心は擦り切れてしまったのでしょう」

ヤドの周りには悲劇が溢れている。
どれだけの人が涙を流したのだろう。

「自らに刃を向ける君が、私には眩しかった。重荷に負けず立ち続ける姿が羨ましかった。でもそんな君でも7年という歳月には勝てなかったようですがね」

ラボでのことを蒸し返される。
そんな相手の話なんて聞きませんよと、言外に含まれる。
どうしようかと考えるヒスイの頭に、声が響いた。

「俺はお前達のことなど恨んでいない。罰を与えようとも思わない。ヤドが解放されたら好きなように生きればいい」

別人のように話し出すヒスイに驚いて、シムトが顔を上げた。
焦点のあわない瞳が見えたかと思うと、グラリと体が傾く。慌てて体を受け止めるとヒスイは意識を失っていた。

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