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BL小説『白い蜥蜴と黒い宝石』第9話

【決闘】

「戦いを終わらせるって、ホントにそんなこと言ってるのか?」
「クロはそう言ってた」

里に戻ったイザナはクロに言われたことを長に報告した。
長は「わかりました。どうするか考えてまた話をします」とだけ言い、部屋に篭ってしまった。
待ちぼうけのような状態になって、シロとイソラとイザナはイソラ達の家でどうなるのかを話し合っている。

「なんでクロは帰って来ないんだよ。別に残らなくてもいいだろ」
「繋がりになるってクロは言ってた」
「いや、意外と向こうの長に惚れたのかもよ」

クロの気持ちを知ってるくせに、イソラは意地悪なことを言う。

「そう言えば、ヒラヒラした女物っぽい服着てた。髪飾りも」

珍しくイザナも悪ノリに参加する。

「は⁉︎なにそれ!羨まし…じゃなくて、変態親父に変なことされてんじゃないのか!大丈夫なのか!」
「変態親父って、相手のこと見たことないだろ」
「るっさい!そんな格好させるなんて変態親父に決まってる!」
「クロが自分でしてるのかも。相手を喜ばせたくて」
「……そんなことない!クロが……敵の長を……好きになるなんて………」

シロの勢いがどんどん落ちていく。
さすがにこれ以上は可哀想かと、「大丈夫、そんなことあるはずないよ」とイソラ達はフォローするほうにまわった。


その夜。クロは1人ベッドで悩んでいた。
最初の日以降ずっとシュアンと一緒に寝ていたが、返事をもらえるまではクロに触れないとシュアンはソファで寝ている。

『俺のことが好き?シュアンが?』

クロもシュアンのことは好ましく思ってるし、一緒にいるのは心地よい。でもそれは恋愛感情とは違うものだと思っていた。

『シュアンは俺のこと大切にしてくれるだろうし、怖がることもしないだろう。白の里との話し合いもスムーズに行くかもしれない。………でも俺はシロが好きなんだよな。向こうは兄弟としか思ってないだろうけど』

「……こんなことになるなら、シロに好きって言っときゃ良かった」
「眠れないのか?」

クロの呟きに反応するようにシュアンから声がかけられる。

「あ……シュアンも?」
「ああ。ずっとお前が一緒に寝てくれてたから、落ち着かない」

シュンと垂れた耳が見えた気がして、クロは気持ちが軽くなる。
気づくとソファの前まで歩いて、シュアンの顔が見えるように座り込んでいた。

「シュアンは意外とわかりやすいよな。甘えん坊だし」
「お前の前でだけだ。普段は長としてちゃんとしている」

少し拗ねたように言うシュアンにクロは苦笑する。

「……俺、好きなヤツがいるんだ」
「今言ってたシロってヤツのことか?」

聞こえてたんかい!とツッコミを入れたくなったが、シュアンは真剣に話を聞こうとしてくれてるので堪えた。

「うん。でも向こうは兄弟としか思ってなくて。告白する気もないんだ。だから………」
「クロ。それはいけない」

シュアンが優しくクロの唇に指を当てる。

「お前を好きになって私は幸せを知った。だから、誰かを好きだと思う気持ちがあるなら大切にしないと」

愛おしむようにクロの頬を撫でる。
シュアンは心の底からクロのことを想っていた。

「……そうだな。ごめん。シュアンに失礼なことした」
「構わないよ。私のことを真剣に考えてくれたのだろう」

シュアンが起き上がってきてクロを抱きしめる。「今夜も一緒に寝ていいか?」と言われて、クロはゆっくりと頷いた。

「シロに会えたら、俺も気持ちを伝えないとな」
「ああ。そうしてくれると私も嬉しい」
「?」

言葉の意味がわからなくてクロが首を傾げる。仕草の可愛さに溢れたシュアンの微笑みが、イタズラな顔に変わった。

「お前がふられたら、私にもチャンスがまわってくるだろう?」


白の里ではシュアンの里との話合いをどうするか、協議が行われていた。

「向こうが集落を襲うのをやめない限りは無理でしょう」
「我々だって戦いたくて戦ってるわけではない」

全ては向こうに責があると、白の里側は応じる必要はないとの意見がとぶ。

「しかし、彼らも行き場のない憎しみに苦しんでいるのです。数が増えているとはいえ、白の人同士で殺し合えば待ってるのは破滅です。私達で解決策を探さなければ」

長の言葉に全員が黙ってしまう。
重苦しい沈黙の中、部屋の隅で話を聞いていたシロが手を上げた。

「あの〜。俺に案があるんですけど」
「あら。シロ。言ってみてください」
「決闘はどうでしょう?」

決闘の言葉に部屋がざわざわしだす。
長は気にせずシロに話を続けさせた。

「決闘とは?」
「それぞれの里で代表者を1名選んで戦うんです。勝利条件と勝敗で得られる物を決めて。今回なら死者が出たら禍根を残すと思うので、どちらかが負けを認めたら終了。うちが勝てば向こうは今後人里を襲わない。向こうが勝てばうちは向こうの行動を邪魔しない。とか」

まだざわざわとした雰囲気は収まらないが、長はシロの案に納得したようだった。

「なるほど。提案する価値はありますね。向こうの長に連絡をとりましょう」

話し合いへの道が開けてシロは喜ぶ。
戦いが終わること大事もだが、話し合いが進めばクロを解放できるかもしれない。
クロ第一なシロは、とにかくクロに会うことしか考えてなかった。

「ちなみに、決闘が正式に決まればシロに里の代表をお願いしますね」
「………へ?」

全員の視線がシロに注がれる。

「えええええええ」
「言い出しっぺの法則です」

長は楽しそうに笑っていた。


数日後、イソラとイザナが使者としてシュアンの元を訪れていた。

「なるほど。決闘か。考えたな」

シュアンは白の里の提案に乗り気なようだった。

「里の者の意見も聞かねばならないから、返事は後日送る。今日はこのまま帰ってくれ」

要件が済んだイソラ達はさっさとその場を去ろうとする。
だが、イソラが最後にシュアンのはうを見た。

「ちなみにうちの代表はシロという者が務めます」

シュアンがピクっと反応する。
もちろんイソラはクロがシロの話をしていることなんて知らない。

「では。良い返事をお待ちしています」


「なんと言うか、向こうの長の奥方みたいに見えるな」
「僕は勝者への褒賞品に見える」
「………どっちもイヤだ!」

決闘はあっさり承諾され、人里離れた草原に白の人が大量に集合していた。
各々の里で陣営を作り、決闘前に指揮を高めている。シロ達が話しているのは敵陣にいるクロのことだ。
祭りごとでしか見ないような華やかな服に豪華な装飾品、うっすらとだが化粧まで施されている。
そんな姿でシュアンの横にずっといるものだから、周りからはどう見えているのか。

『なんで!なんでそんな格好してるんだよ!まさか本当に長と⁉︎』

シロはジッとクロを見つめる。
視線が届いたのかクロがこっちを見るが、シロに気づくとすぐに顔を背けてしまった。

『クロ⁉︎なんで⁉︎やっと会えたのに………』

白の里の代表者は、決闘前からすでに負けたような雰囲気を醸し出していた。


話は遡ること数時間前。
クロがいつも通り部屋にいると、「久々に好きな人に会うのだから綺麗にして行ったらどうだ」とシュアンが服やら髪飾りやらを持ってやってきた。
するとその後ろから女性が何人も入って来て、あれよあれよクロを取り囲む。

「あら〜。こんな可愛い子を隠してるなんて、長も隅に置けないんだから」
「綺麗な髪〜。銀細工がよく似合いそう」
「肌もツヤツヤよ。顔立ちも綺麗だし、化粧いらないくらいじゃない?」

きゃあきゃあとクロを好き勝手に飾り立て、女達は去って行った。
残されはクロは呆然としている。

「うん。よく似合ってる」

シュアンは仕上がりに満足そうだ。
クロは頭が痛くなってきた。

「シュアン……里の人間は普通の人を憎んでるんじゃなかったのか?」
「多かれ少なかれ恨みはあるが、みんなが復讐したいと思っているわけじゃない。だから今回の提案が通ったんだ」

里の中にも戦いを終わらせたいと考えている人がたくさんいるのだろう。だからシュアンは1人動いていたのだ。
先ほどの女性たちを思い出す。あんな風にみんな笑って暮らせたらいい。
クロはシュアンの手を取って決闘場へ向かった。


『でもやっぱりこの扱いは納得できない』

白の人でないクロが長の隣にいることに不満をあらわす者もいるが、綺麗に飾られたクロが長の横に寄り添う姿はみんなの心を和ませた。中には「長もついに結婚かぁ」と言い出す者までいる。
いたたまれない雰囲気の中、白の里の陣営を見るとシロがいた。
自分を呆れた顔で見るシロに、クロは恥ずかしくなって顔を背けてしまう。
顔を赤くしているクロに気づいたのか、シュアンが耳打ちしてきた。

「今日は私が代表として出る。ちなみに向こうの代表はシロという人間らしいぞ」

何も聞かされてなかったクロが驚いてシュアンをみる。
シュアンは笑いながら決闘の舞台に上がって行った。

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