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「10 -第三部-」 9話

【驕り】

外出解禁になってから数日後。
ルリが約束を守ってレインを議事堂に連れてきた。

「立派な建物だね〜」

中央に来たのも初めてなレインは、議事堂の建物に感嘆の声をあげていた。

「政治の中心部だからね。さあ、中に入ってみようか」

ルリに連れられ中に入ると、ちょうどフォーラが帰る所だった。

「あら。ルリ殿。今日は可愛い同行者がいらっしゃるのね」
「フォーラ殿。はい。議会を見学したいというので連れてきました」
「それはいいことですわ。ぜひ色々見て学んでいってくださいね」

上品な笑みを浮かべながら会釈するフォーラにつられて、レインもお辞儀する。
そのまま議論真っ只中の部屋に連れて行かれると、熱気に思わずたじろいでしまった。

「だから、まずは貧民街の問題を解決する方が先だろ」
「あと3年。地上の運営はこのままで問題なくいけそうなのか?」
「保護すると考えるからダメなんじゃないか。自立できれば……」

何人もの大人があちこちで真剣に話し合っている。聞こえてくる内容は、理解できたり全く分からなかったり。

「まるで喧嘩してるみたいだろ。でもみんな世界を良くしたい。困ってる人を助けたいと必死なんだよ」
「うん。それは伝わってくる」

迫力に少し怯えながらも、レインは熱心に話を聞こうとしている。ルリが「聞きたいことがあれば言ってごらん」と言うと、話の中で出てきた言葉や内容など次から次へと質問された。真剣に理解しようとする姿に、ルリも真摯に向き合って答えていった。


「今日は俺の地元を紹介するよ〜」

また別の日は、ソラがアヤの町へ連れて行ってくれた。

「あれ?ソラ帰ってきてる」
「ついに左遷されたか〜?」

町を歩くたびに色々な人に話しかけられる。それに答えていくソラの横で、レインは「アジトみたいだな」と楽しい気持ちになった。

「そして、ここがこの町を守る軍人さん達のお家です」

事務所に着くと隊員総出で出迎えてくれた。あらかじめ連絡をしたらみんな事務所に残ってくれたのだ。

「いらっしゃい。レインくん。12歳ならうちの真ん中の子と同い年だ」
「お菓子あるよ〜。飲み物はお茶でいいかしら?」

クレナとヒワの親コンビがちやほやとレインを可愛がっている間に、ソラはリンドとカナリに責められていた。

「あんた。出世して帰ってくるって言って全然じゃない。なにやってんのよ」
「お前が帰ってこないと俺が中央に行けないだろ。さっさと昇進して帰ってこいよ」

自由な隊員達に『ああ。久しぶりだなぁ、この感じ』とソラが浸っていると、トキが「みなさん、ほどほどにね〜」とのんびり声をかけた。


「でね。今市民からの意見を集めれるように考えてるんだけど、貧民街をどうするかが問題でね……」
「アヤの工場は色んなもの作っててね!木が綺麗な形になってでてきて………」

連日のおでかけが楽しいらしく、レインはお喋りが止まらない様子だった。ヒスイは楽しそうに話すレインの言葉に丁寧に耳を傾ける。

「明日はトーカに教会のラボに連れてってもらうんだ。アサギさんって人が案内してくれるって」
「明日なら予定ないから、俺も一緒に行こうかな」
「そう言えばそうか。なら一緒に行くか」
「ホントに!やった〜!」

喜ぶレインを見ながら、「俺も行きたい!」というクキを「お前は仕事だろ」とトーカが冷たくあしらっていた。


「いらっしゃい!教会のラボへようこそ」

ラボに着くとアサギが入口で待っていた。

「すまないな。アサギも忙しいだろうに」
「構いませんよ。子供達に向けてラボを解放する話も出てるんです。だから今日はお試しですね」

ラボではみんながレインを楽しませようと、研究成果をわかりやすく体験できる形にして待っていた。

「あ、この射的、アヤの祭りでしたけど全然当たらなかったやつだ」
「ふっふっふ。あれから改良して更に跳ねるようになってるよ〜」
「ホントか!今度こそ当ててやる!」

いつのまにかヒスイまで一緒になって遊んでいる。「いつまでも子供だね〜」とトーカははしゃぐ2人の後ろをついて歩いた。


散々遊んで満足した2人は、「そろそろ帰るよ〜」というトーカの言葉でしぶしぶみんなに別れを告げる。

「本当に楽しかった。アサギさん、ありがとう」
「楽しんでくれてみんなも喜んでたよ」

スキップしながらレインが先にラボの出口を出ると………

物陰から出てきた男に後ろから捕らえられ、ナイフを突きつけられた。


「レイン!」
「動くな!」

男はナイフを見せつけるようにヒスイ達を牽制する。

「神聖な教会のラボにこんな子供を連れ込むなんて……」

男は神父の格好をしている。

「くそ!なんなんだ、アイツは」
「多分教会の解放反対派です。最近の教会は市民達との関わりを増やしているので、ああいった輩がでてきているんです」

話しながらアサギが手に何かを用意する。その手をトーカが止めた。

「大丈夫。こういうことは俺達に任せなさい」

ヒスイに目配せする。ヒスイは頷くと大きく跳ねて男に向かった。

「おい!コイツがどうなっても……」

その瞬間、トーカが銃で男のナイフを弾く。
ヒスイは男の顔を思いっきり蹴って、レインをトーカ達の方へ逃した。

「抵抗しなければ危害は加えない。このまま軍が来るまで大人しくしていろ」

レインはトーカ達に保護されて落ち着いてるようだった。ヒスイは男にナイフを突きつけながら、それを確認してホッとした。

「……ヤド様を守る崇高な教会を愚弄しやがって。お前達なんて今にヤド様の罰が降るぞ!」

その言葉にヒスイがピクッと反応した。

「何だと……」
「ヤド様は全てを見ている!世界を守っているんだ!お前達のような世界を乱すヤツらはヤド様の怒りを受ければいいんだ!」

ヒスイの顔が怒りに歪む。恐ろしい形相で男を見下ろした。

「そうか。お前、ヤドの関係者か。なら俺のことは知ってるな。ヤドの怒りを買うのは俺達じゃない。ヤドの庇護を受ける俺を……」
「ヒスイ。ダメだよ」

トーカが優しくヒスイの口を塞いだ。
我を失っていたヒスイの目に正気が戻る。

「………トーカ。俺………」

ヒスイは冷や汗を浮かべ、愕然とした表情でトーカの方を向いた。隙をついて男が逃げ出す。
トーカが追いかけようとした瞬間、「グエッ」と言う声がして男が地面に叩きつけられた。何もない空間で。

「ガッカリですね」

男の向こうで声がする。

「私の前で自分にナイフを突きつけた君はとても美しかった。なのに、なんですか、今のは。力に驕って自分勝手に人を呪おうとするなんて」

そこに立っていたのはシムトだった。

「この男は私が処分します。心配しなくても君は関係ありませんよ。教会にもルールがありますからね。違反すれば罰せられるのは当然です」

男を抱えてシムトは去っていった。
震えるヒスイをトーカが支えている。
それを遠くから見ながら、レインは胸が痛むのを感じていた。

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