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インサイド・アウト

「おじさんもライリーなんだよ。」 かかる突然の声かけに狼狽した私は、声の主を探して視線を泳がせた。  顧みれば、常夜灯の下に、季節外れのロングコートを羽織ったおじさんがゆらゆらと陽炎の如く揺れている。 「おじさんもインサイド・アウトする。」 時期に後れて顔を背けようとした時には、既におじさんは羽織っていたコートの前面をかっ広げ、その股間部分を開陳していた。 ──っ!!  声にならない叫びが鋭い吐息となって口角から漏れ出す。──見切れていく瞼の縁で、おじさんのイチモツが私をキャ

    • 生きること、その不可避な加害性

       西新宿の鄙びた居酒屋で「生ビール」と偽られた飲み放題の発泡性リキュールをすすりながら、僕は10人掛けテーブルの隅で縮こまっていた。  同じテーブルで開催されている合同コンパは佳境に達しており、体育会系の男たちが自身の恋愛論とその誠実さを示す経験談を武器に、口角泡を飛ばして激しく争っている。発泡性リキュールの度数が存外高いようで、対面する女性陣も頬を上気させてまんざらでもなさそうな笑みをたたえている。  数合わせのために呼ばれた経緯からもお察しであるが、僕は合同コンパでモテる

      • 知について語るとき、我々は何について語るのか

        ——戸間君もきっといつか、色んな知識がつながる日がくるよ。  彼女の極めて率直な物言いに、僕の世界はまるでひっくり返されたかの如く渦巻いた。襲い掛かる混沌の波に負けないように、僕は一言一言記憶に刻み込むかのように繰り返す。 ——色んな、知識が、つながる、日……。  彼女は嬉しそうに大きく頷いた。僕を見つめる彼女の瞳は、好奇心できらきらしている。その肉付きのいい身体と上気した頬は、かの巨匠グスタフ・クリムトの『エヴァ』を彷彿とさせた——豊満な身体の曲線美、薔薇色に赤らんだ頬、力

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