2024ハノイの旅#3|世界遺産に感動できず、人生のネガティブトランジションを考えた話|Travelogue
では、旅の様子を駆け足で振り返る。
ニンビンでの出来事
ハノイをスキップして到着初日のうちに訪れたニンビンは、街道沿いに市街地が広がるごくふつうの地方都市だった。この街に宿泊しようと思っていたが、なんの味気も趣もないので思案し、もっと南のホテルが集まっているあたりに場所を移すことにして、Grabタクシーを呼んだ。
着いてみると、このエリアはいい感じのチープリゾートの匂いがした。小さなロッジやホームステイなどの安宿が点在していて、通りを歩く欧米人も多かった。香港の物価と比べると激安な価格につられて、庶民のレストランをはしごした。
一夜明けたニンビンは雨。小雨と霧雨の間の微妙な降り方。この音を聞いて落胆し、少し二度寝してしまう。まったく、移動日の昨日の天気と取り替えてほしいよと、こんなときはいつも思う。
でも何もしないという選択肢はないので、雨に耐えうる格好をして外に出る。まずタムコック川ボートツアーは押さえておこう。
ツアーはフランス女性と同船し出発。でも会話は弾まない。船頭のおばさんもベトナム語オンリーなので会話をつなげない。景色は霧にかすむ感じでいいのだが、今いち没頭できない。1時間半で250kドンは高いと思ったが、後半は退屈した。
思うに、一人旅の場合はこんな有名どころでなくて、近隣エリアのショートコースのほうがフィットしそう。実際90kドンのボートツアーの料金表を見た。「オレこれでよかったな…」って強く思った。
午後に陸側からツアーコースをレンタサイクルでたどると、同じ景色で満たされたので、既製の物事を楽しむ自信がない人にはこちらをおすすめしたい。上のショートコースとセットでね。
ムア洞窟へは翌日天気が回復した早朝に訪れた。山の頂上からネットの写真を確認したこと以外には、吹く風が気持ちよかったということと、生産の場(田んぼ)そのものが観光資源であることを俯瞰できたという感想しか手許に残っていない。
「ああ、この手の急な階段がある場所に来れるのはあと何年だろう?」と思った。血筋的に膝に不安があるので。若いときにやりたいことをやりきろうとするノマドな人々を尊敬するし応援する。
カットバ島での出来事
次の行き先をカットバにしたのは、一日がかりの世界遺産のハロン湾ツアーだと暇を持て余しそうだと思ったからで、カットバ近郊のランハ湾でも同じ景色が見れるし、プランも融通がきくと聞いていたからだった。ただ今回に関してはよく下調べをしておけばよかったと思う。
着いてみると、ランハ湾ツアーのショートカット版はそんなにメニューがなく、参加したのはサンセットクルーズだった。これだとニンビン発の便を早めにしておけば、初日の天気と海況がいいときに参加できたはずだった(夕焼けもね)。それに下痢になる前だったから、もっとリラックスした気持ちでいれたと思う。
3時間ほどのコースは案の定退屈で、カヤックタイムくらいしか心が浮き立たなかった。そのカヤックも相乗りの都合上、早めに帰艇しなくてはならなかった(単独参加の時点で諦めはついていた)。
せっかくカニやエビを食べつくそうと思っていた矢先に下痢になったので、他には街歩きくらいしかしていない。市場では、ニンビンとは違って海産物が多く、多くの種類の貝類やヒトデ、それに小型のサメなんかも山積みされていた。
受け身の世界遺産見物より大事なこと
この旅行で一番気持ちよかったのは、自転車でニンビンの田舎を走るときの疾走感だったような気がする。田んぼの色や匂いを感じ、生き物がいると立ち止まり話しかけながら、人と目が合うと「シンチャオ」と声掛けしながら、の道中だ。細かい雨粒でメガネに水滴がつくのも厭わず、ひたすら駆ける。それがよかった。
世界遺産(どっちもどストライクの遺産本体ではなかったが)を対象としたツアーは、エージェントを介することで効率的かつ安全に観光することができる点で優れている。また、ニンビンのような住民が漕手として雇用されるケースでは、観光の経済効果を地元に還流させている点も評価できる。
しかし自由度が低い。これは価値の保全のために致し方ない面がある。それに集団行動が苦手な人には不向きだ。オレなんか同行者がいると、自分よりもその人の行動を優先してしまう控えめさが先に立ってしまう。
語学力があって、信頼できるエージェントと一緒にプランを最適化できれば上記をカバーできるかもしれないが、今度はコストが重くのしかかる。せめて友だちと一緒に楽しいひとときを送ろうと切り替えるのはどうか。でもオレには一緒に旅する友だちがいない。今回の旅ではゲストハウスにも泊まらなかったから、旅先の友もみつけられない。
以前は、リタイア後の人生は旅を基軸に組み立てようと考えていた。だが、その考えは「老い」の見積もりが甘かった。身体も丈夫、気持ちも柔軟という一人旅適齢期はどうやら過ぎてしまったようだ。これからも旅を続けるに当たり、攻撃から守備へのネガティブトランジションが必要だ。2022年11月に目の病を患ってからはずっとそんな気持ちでいるし、今回その意を強くした。
その点、釣りはいい。能動的だけど、大きな身体的負担はない。ふだんとは異なる自然環境の中で釣りをすることができ、脳も好奇心も活性化される。場との一体感はツアーなんかでは味わえない感覚だ。
多くの交流を望むたちではないのだが、釣りでは現地の人々と適度に交流することができる。今回もハノイの西湖のほとりで釣具屋を営むベトナム人日本語スピーカーと会話した(結局おすすめの釣り堀には行けなかったが)。釣り場での釣り人は概して寡黙なところもいい。
今回は本格的な釣りはしなかったが(竿が細すぎると止められた)、次回からはまた釣り旅を再開させたいな。空手道場めぐりもいいかも。