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観劇前に行ってみて!新国立劇場情報センター

オスカー・ワイルド作・平野啓一郎翻訳、舞台『サロメ』を観に行く。
演劇ワークショップの参加をきっかけに、無名塾の女優、円地晶子さんと知り合いになった。以来、彼女が出演する舞台には必ず足を運んでいる。前回のジャン・ジュネ作『女中たち』は、予習が不十分なため、やや消化不良に終わってしまった。同じ轍は踏むまい。『サロメ』のあらすじは頭に入ったが、もう一歩踏み込んで予習しておきたかった。しかし図書館やネットの情報には限界がある。

ふと初台にある新国立劇場の図書室のことを思いだした。正式名称は「情報センター」。開架図書は5,000冊、閉架には、楽譜を含め60,000冊の蔵書がある。ここでは図書だけでなく、オペラやバレエ、演劇など、主催公演の映像記録を閲覧できる。Webサイトで資料を検索したところ、2012年、宮本亜門演出、多部未華子主演の公演記録があった。予約は不要だったが、初めてだったので、確認を兼ねて事前に連絡しておいた。当日は、タブレットの貸し出しになることと、住所確認用の証明書を持参するよう告げられる。

午前10時半。劇場に入ると、警備員が一人立っているだけ。天井の高いロビーは巨大ながらんどうで、しんと静まり返っていた。情報センターは5階にある。初回のため、閲覧カードを作ってもらう必要があった。「お電話した林です。あの、身分証明書を忘れたんですが」と不安な面持ちで伝えると、「次回でいいですよ、この用紙に記入してください」と快く利用を許可してもらえた。何となく歓迎されていると感じたのは、閲覧用のヘッドホンと一緒に、2012年の公演パンフレットがすでに用意されていたから。それにビデオブースへ案内されたので、タブレットではなく21.5インチのモニターで閲覧できた。

他の利用者はいない。集中できるよう態勢を整え、いざスタート。舞台はエルサレム、ヘロデ王の宮殿。ヘロデは兄である前王を殺し、妃を奪って王座に就いていた。宴の席を抜け出した王女サロメは、井戸に幽閉されている預言者ヨカナーンに恋をするが、拒まれる。踊れば望みの物を与えると約束され、サロメは継父の前で艶やかに舞い、そして褒美にヨカナーンの首を求めるのだった。果たして王はサロメの望みをかなえるのか。そして結末は。
映像とはいえ、息をのむ演技・演出で、上演時間の99分はあっという間だった。

こんどの舞台は、無名塾の主催。国立劇場と俳優養成所とでは、公演の規模が違う。そのため、この予習が吉と出るのかは分からないのだが、今日のところは観劇の楽しみが増し、足を運んだ甲斐があった。

帰りに受付に寄ってあいさつをした。「来月『サロメ』を観に行くので、予習のために利用させてもらいました。ゆっくり閲覧できて、とてもよかったです」と礼を述べ、ついでに一つ質問した。「ちなみにここの利用者って、どういった方が多いんですか。学生さんとか、業界関係者とかですか」
と尋ねると、「オペラやバレエを観る前や観た後に、予習や復習のために利用される方がほとんですね。年配の方が多いですよ」と教えてくれた。

なるほど。久しく行っていないのだが、イタリア語など原語で上演されるオペラの場合、舞台の脇に日本語字幕が付く。しかし字幕を読みながらでは、頻繁に視線を移さなくてはならず、作品の世界に浸りづらい。オペラのチケットは数万円する。大枚をはたいて行くのだから、しっかり楽しめるよう気合を入れて臨もう、と考えるのは、私だけではなかったようだ。

閲覧カードを受け取り、1階に下りた。
午後1時半。ロビーは観客であふれ、開演前の高揚した雰囲気が充満している。今日は新国立劇場バレエ団の「白鳥の湖」の初日だったのだ。いつかバレエも観に来たいなと思いつつ、劇場を後にした。

[公演情報]:【無名塾】ワイルド作『サロメ』公演 すみだパークシアター倉にて7月6日〜12日上演決定!!

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