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渋谷駅で <短歌>

交差点を見下ろす通路の端っこで

人混みを撮る人を見る僕


私は通学に井の頭線を利用している。大学からの帰り道、渋谷駅の改札を出て銀座線に乗り換えようとした時、ある光景が目に止まった。

激混みのエスカレーターを通り過ぎた左手、ガラス張りの壁に沿ってカメラを構える人たち。彼らが見つめているのは渋谷スクランブル交差点だ。一体スクランブル交差点の何が彼らをこんなにも惹きつけるのか、それは本人たちにしか分からない。しかしやはり、ここで交わり、通り過ぎてゆく大勢の人々が、スクランブル交差点という表象を作り上げていることに異論はない。
そこにはとんでもない数の人々の物語がある。友人との待ち合わせに遅刻寸前の人。玄関で待つわんこの姿を想像しながら帰路につく人。髪を切って少し変わった自分の姿に心を弾ませる人。それから恋人に振られて行く宛もなく歩いている人。
それら一つ一つを想像しながら眺めれば、きっとスクランブル交差点は大変味わい深いものであるに違いない。

ということを想像しながら、作者はスクランブル交差点"を撮影している人々の背中"を見ているのである。この時の気持ちを短歌に詠んだ。
そんな私の物語も、後方や上方から眺めている誰かが想像しているのかもしれない。多くの人は意図せず交わりあって、世界を描いてゆく。


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