息子の優しさが”しみた”日。
#子どもに教えられたこと
中学生になっても息子はあいかわらず勉強嫌い。
好きな科目は?と聞かれたら「体育!」と迷わず即答する彼。
温かい友人に囲まれてゆるりとした中学生活を送っているのだが、
私は彼の将来を案じるがゆえに「勉強しなさいよ。しないと困るのは自分だよ。」と毎日ついつい口うるさく言ってしまっていた。
でもそんなある日、私の言動をくつがえす出来事が起こった。
その日は年に何度かある会社の特別なイベントの為に、休日出勤の予定だった。
そして15分ほど余裕をもって会社に到着するために、私は6時40分の
電車に乗ることにしていた。
しかし!!!ここで大きな問題が発生したのだ。
目が覚めたのは、なんとまさにその乗ろうとしていた電車と同じ時刻の
6時40分。(しまった。オワタ・・。)そう思った。
絶対遅れてはいけないという緊張からか、早く目を覚ましてなぜか二度寝をしてしまったらしい。もう間に合わない。
(いや、まだあきらめるな!)
心の声が自分を鼓舞しながら、起きたてのボヤンボヤンの脳みそを
フル稼働させて考えろ!と言う。
(余裕を持たせていた時間=15分。今からその15分以内の電車に乗れるか?がキーになる。それに乗れたら、ギリギリ会社に滑り込める!)と思った。
だが今から数分で着替えて駅まで走ったとしても、私の足では(無理だ・・。絶望的だ。)
そう悟った私は「やばーい、どうしようーやってまったー!!」と
絶叫し、あわてふためきながらも、とりあえず着替えを急いではじめたのだった。
仕方ない。もう遅れる覚悟はできた。この歳で遅刻なんて、少し恥ずかしいがどうしようもない。(←こういうとこはマジメに生きてます)
そこへ、叫ぶ私の声を聞きつけた中学生の息子が2階の自分の部屋から
かけ降りてきた。
「ママ、どうしたの?」
「寝坊しちゃったんだよ。もう遅刻なのー。やばいよー。やばい。」
出川哲郎ばりに「やばいよ。」を連呼しながら着替える私をちらりと見て、息子はすっと部屋から消えていった。
母親のあきれた状況になすすべもなく行ってしまったのか・・。トホホ。
親としてなんだか情けない想いのまま、とりあえず着替えだけは進めていた。
しかし消えたと思った数秒後、息子がスマホを片手に持って、私の部屋に戻ってきて、そしてこう言ったのだ。
「ママ。6時50分の電車があるよ。それに乗れば間に合うんじゃない?」どうやら電車乗り換え時刻案内をスマホでチェックしてくれたようだ。
普段のおっとりとした息子からは想像もしなかった素早い行動に、
驚きとともに頭が下がる思いだったが、どう考えても間に合いそうもなかったのでこう答えた。
「いや、無理だよ!だって今からすぐに駅に向かっても、ママの足だと7、8分ぐらいはかかるから。どう考えても間に合わないでしょ?」
やるせなさから、大人げなく若干強めの口調になってしまった。
すると一瞬の”間”の後、穏やかに息子がこう言った。
「ママ。ママが自転車に乗って駅まで行って。僕が後ろを走って追いかけるから。ママは自転車を駅のところに乗り捨てて行けばいいんだよ。すぐに僕がそれに乗って家に帰ってくるから。」
衝撃だった。
(そうか、自転車か!しかも駐輪場に止めたりすると時間がかかるが、それならば、間に合うかもしれない。)
道は開けた~!
「ありがとう!そうするね!」
落胆は一気に希望に変わった。
そして着替えを終えて、私は自転車に飛び乗り、急いで駅に向かったのだ。
後ろを振り向くと、息子が走って追いかけてきてくれている。
なんていい子なんだ・・。
いつのまにこんなに頼もしく成長したんだろう。
尊い。尊すぎる!!
もはや、仏にしか見えない。ナームー。
そんな感謝に満ち溢れた、祈りをささげるような気持ちのまま、
ほどなく駅に着いた。
自転車を止めて、後ろから走ってくる息子に向かって、
「よろしくねー!」と叫んで、改札に向かった。
ホームにまだ電車は着いていないようだった。
その日、無事に私は電車に乗ることができた。
ぎりぎり会社に遅刻もせずにすんだ。
この時心のそこから私は思った。
生きていく上で、大切な事ってこういうことなんだよなぁと。
勉強ができるとかそんなことは、どうでもいい。
あとからどうにでもなることだ。
それよりも”自分で問題を切り抜ける力”と”人を想う優しさ”が
彼にはあるんだ。
それはとても、とても”尊い”ことなんだと。
あの日以降、私の気持ちにやわらかな変化があった。
相変わらず試験前でさえ、勉強があまりすすまない息子を見ても、
心の中に、あの時走って追いかけてきてくれた息子の姿が浮かんでくるようになった。
だからもうあまり強く「勉強しなさい」と言うことはなくなった。
大切なことを私に気づかせてくれた息子に心から感謝を伝えたい。
『あのね、あの日のあなたの優しさがママは嬉しかったよ。
ありがとう。あなたの優しさは、ママの誇りだよ。』