欲しかったもの
私が欲しかったもの。
尊敬し合い、信頼し合い、愛し合える人。
お互いのすべてを知る必要はないけれど、二人の間のことは話し合いができる人。
相手の幸せが自分の幸せ。悲しい時はそっと抱き寄せる。
そんな愛…それが欲しかった。それさえあれば、他は我慢できる。
欲しかった愛は、手に入らなかった。
私はバカだった。世の中には、自分の欲望のために、人を利用し犠牲にすることに、まったく罪悪感を持たない人間がいるとは、思いもしなかった。
水を求めてさまよう砂漠に現れる蜃気楼のように、求めるものにたどり着いたと思ったら、目の前から消えてしまった――もともとそこには灼熱の砂しかなかったんだ。
消えてしまう蜃気楼なら罪もない。
けれど、砂で乾きが癒されるわけもない。
踏み潰され粉々になっても、悪夢は終わらなかった。
取り返しのつかない残酷な現実だけが残り、何ひとつ手に入らなかった。
愛する人。自分に合ったやりがいのある仕事。
生涯付き合える友人。贅沢ではなくても、ほんの少しゆとりのある生活。
やりたいことができるだけの健康。
どれも持ってない…真逆のものばかりを抱えている。
誰かが言ってた……笑っちゃうなって。こんな道を選んでって。
その気持ち、わかる気がする。
自分に呆れ果てて、笑っちゃう。ため息とともに漏れる悲しい笑み。
取り戻せないってこと、知ってるんよ。
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