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マンガ『寄生獣』にみる痛がりと同苦と人間らしさ(ネタバレ含む)

  皆さんはマンガ『寄生獣』を読んだことがあるだろうか。

(以下の内容は多少なりともネタバレを含むので、注意。)







   私が『寄生獣』を初めて読んだのは高校生の時で、当時兄に勧められて読んだように記憶している。
  『寄生獣』では人間、つまり種としてのホモ・サピエンスに寄生し、脳みそなどを乗っ取ってホモ・サピエンスを滅ぼそうとする「パラサイト(寄生生物)」たちが突如地球に落下してきて、地球上の人間に寄生し人間を襲い始める。
  その中で寄生に失敗した「ミギー」とその宿主である少年「新一」が寄生生物たちと戦う物語であるが、当時17歳だったか、18歳だったかの私が妙にある言葉に引っかかってしまったのを記憶している。


哺乳類は「痛がり屋」


  私が凄く初見で嫌だなと思った表現こそ、
「哺乳類は痛がり屋だな」と何度も寄生生物達が哺乳類を腐しているところであった。
  「哺乳類は痛がり屋」という表現は、確かに今であればその通りなんだと思うし、そこにはメリットもデメリットもあるのだが、当時の私は、臆病で、このマンガは無意味に人間含めた「哺乳類を腐しているんだ!!」と憤慨したものである。
  私が読書をする上で、1番の厄介だと思う自分の性質は、私見にのめり込みすぎる時があるということなのであるが、まさしくこの時も私見に振り回されて、読むのをやめかけたと覚えている。

  まあある意味では当時の私は年齢的にも経験値的にも「青かったんだろう」と思うが、それはそれとして。

  哺乳類は痛がり屋であるというのはずっと引っかかった表現であったのは鮮明に覚えている。
  正直私自身はものすごく「痛がり屋」である。
  私は歯医者がめちゃくちゃ嫌いなのだが、その理由は、歯の治療ほど痛いものはないと思ってるからである。昔から殴られることが多かったからそれも痛かったし、骨折1回、肋骨にヒビも入ったことがあるし、色んな痛みを経験してる「痛がり屋」だった。
  だから正直、「図星」であったし、あえて言われたことによって、ショックを受けたんだろうと、今になって思う。

  しかし、『寄生獣』全体を読むと、物語は「哺乳類は痛がり屋だから弱く劣等な種族」ということは一切主張していない。むしろ、最終盤で「田宮良子」というパラサイト側のブレーンから「私たちは弱い存在だからあまりいじめるな」と釘を刺されてしまうのである。


  折角だからここでもうひとつのシーンを紹介したいのだが、主人公・新一はパラサイトと戦う中で、不幸にも母親をパラサイトに襲われる形で亡くしてしまう。

  一方、「田宮良子」は人間に強い興味を持ち、純粋に人間の子どもである赤ん坊を妊娠して産んでみたり(寄生は一部分だけなので、元々の人間の体の部分は引き続き人間として生きている)、研究者の講義を聞いてみたりするのであるが、最終盤で「田宮良子」がパラサイトだと断定されて、人間たちに殺される時赤ん坊を新一に託すのだが、「田宮良子」はなんと新一の、殺されてしまった母と同じ顔をして新一の警戒を解くのである。
  パラサイトは作中でほとんど人間らしい感情を持ち合わせていないように描かれる。殺される時、仕方ないと思うし、誰かを殺す時も何も動じずに仕留めている。
  彼らは人間と違い、他者の感情を慮(おもんぱか)ることはないし(そもそもミギーが最序盤で新一に「キミは虫を殺すときに虫のことを可哀想だと思うか?」と聞いているシーンがある)、ましてやその「痛み」に対して配慮するようなことはないのである。

  ここから(論理が飛躍してないといいのだが)推察することが、人間というのは他人の痛みが分かるようになってから実は一人前の人間なのではないかと私は思うのである。

  男の子を観察すると、アリに対してだったり、虫などの小さな生き物たちをいじめたり殺したりする子って結構いたりするのだが、あれは「他者の痛み」に対しての閾値が低い幼い子どもだからなんだろうと思うのである。



  さて、なんでこの話をしているかというと、今の世をみるに、インターネット上で言葉と言葉という人間の本来のコミュニケーションとして不完全なもののやり取りの中で、
他者の痛みに対して非常に鈍感になってしまうような環境が私たちの目の前に現実としてあるのである。
そのいま、私たちは今まで以上に尚更として、言葉を操って誰かを批判する時ほど、
他者の痛みに敏感である「痛がり屋」である必要がある気がする。

「痛がり屋」であるとき我々人間は、「まことに人間らしい」言葉で冷静な議論が出来ると思うのである。


拙い文章で申し訳ないが、所感である。 

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