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半径二、三メートルの世界が惹きつける世界を書く


月に一度、中高生に書いてもらった作文を私が二本選んで、添削しているんです。テーマとしては、政治や経済、社会問題といった硬派なものを取り上げたものが多いんですけど、私が「ああ、なるほど。面白いな」と感心するのは、その子が家族と交した会話や学校での出来事など、半径二、三メートルの世界について書いた部分がほとんどなんです。そして、身近な世界ほど魅力的に表現できるというのは、中学生や高校生に限った話ではないんですね。大人も同じだと思うんですよ。

「書く力
私たちはこうして文章を磨いた」
池上彰・竹内政明

半径二、三メートルってめちゃ狭い!

二、三歩踏み出せば手の届く世界。
「身近な話を書こう」と言われたら、
そこから想像するのは自分の視界に入る
十メートルくらいの世界を思うけれど。

声が届く
音が届く
においがする
味わえる
手が届く、手触り感がある

みんなが知っていて、五感を伴って想像がつく
からこそ、自分がまるでそこにいるかのように投影できて、文字通り「共感」ー共に感じられる

それが文章の魅力になり書く力になるんだなあ

そしてそれは、背が伸び、視野が広く、
思考を遠くに飛ばせる大人だからこそ、
感じ、感じられ、感じさせる世界は、
「あえて半径二、三メートル」にこそある。

池上 読者は「自分の知らない話」を面白がるものですよね。実は、その書き手にとって「すごく身近な世界」というのは、新聞記事やテレビのニュースで報道されたりしませんから、読者にとっては「自分の知らない話」、つまり新鮮な情報になる。

同上

テレビのニュースは読者も知っている
半径10メートルの世界は見聞きする世界であり
知っている。
が、二、三メートルまで引きつけたとき、
「そこで起きていること」
「筆者が感じたこと」
は、意外と知られていないかもしれない。

人の数だけドラマがあり、
それが壮大でなくても、
筆者に身近なら身近なほど、
読者には遠いものになるんだなあ。
だから惹きつけるのか。


世間には、さまざまな分野の専門家や有識者による情報がすでに発されています。そうしたものに匹敵するような稀少な情報や、みんなの目が覚めるような独創的なアイデアは、なかなか出せるものではない。その中で、「身の回りのこと」というのは、「自分にしか書けないもの」であって、それはかなりの高確率で魅力的な情報になり得る。だから、「書くべきテーマ」として、ヘタに格好つけた話を持ってくるよりも、身近な話を持ってくるというのは、かなり有効な手だと言えますよね。

同上

自分にしか書けないものは、
自分にしか書けない。

わたしが書くべきものではなく、
みんなが書けないものを書く。


先日は、リオで行われたオリンピックをテーマにした作文を集めたのですが、その中に、高校生の書いたもので、ちょっと面白いのがあった。その作文は、「英検に落ちた」という話から入っていました。それでもあきらめずに勉強して、何度も受けているうちに、ようやく合格することができた。そこから、これまでメダルを取り逃がしていたけれども、今回の大会でメダルを取ることができたオリンピック選手の話につなげていくんです。
オリンピックのような多くの人が注目しているものをテーマにして文章を書くとしても、自分の小さな経験から入る。身の回りを描きながら、地球の裏側で行われたオリンピックという大きな話題につなげていく。

同上

オリンピック金メダリストのお話からではなく
自分の身の回り、二、三メートルに起きたこと
から書く。書き出す。
そこには感情が必ず伴う。

オリンピックと英検という一見全然違う、
遠ければ遠いほど、そのピースがハマる感覚は
読者の快感を招く。

二、三メートルの世界が
地球の裏側二万メートルまで飛ばされるから、
惹きつける。N極とS極が強い引力でハマる。

自分の経験というのは、細かなところまでよく「知っている」わけですから、詳しく書くことができる。つまり、「自分がわかっている、書ける話」だということです。
最初に池上さんから話があった「興味をそそる話の展開の仕方」ということから考えて
、その辺りは、連想ゲームをしている感覚に近いですよね。

同上

わかるは、書ける。
気づけていることを、書く。

ひとり連想ゲーム。
ひとりで楽しめた連想は、
ひとも楽しめるゲームになる。


一つの柱ができたら、そこから連想されることを、これまで見聞きしてきたことでもいいし、最近感じたことでもいいので、とにかく思い浮かべていく。そして、それを実際に原稿の上に置いてみる。すると、不思議と「これなら書けるかもしれない」という道筋が見えてくるんですね。

同上

わかるは、書ける。
書けると、わかる。
わかると、書きたくなる。
書いていくと、次が出てくる。
書けるかも、書けるかも。

二、三メートルから駆け出す世界は、
だれかを楽しませるものでもあるけれど、
自分がきっと一番楽しい。

今日もお付き合いくださり
ありがとうございます。

きょうよかったこと3つ
・会って話すことってやっぱりいいなあ
 と思えたこと(オンラインよりも)
・それはあきまへんね、と言えたこと。
 (これはセーフですね、といわれたけど
 そんなことはないことについて)
・エレベータートークができた

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