太陽の匂い
刈っておいた草を、庭に山積みにしておいた。
ここの所のお天気が染み込んだ刈り草である。
陽が傾いた気持ちいい時間に、
その山ををひっくり返すと、湿った草から、
なんとも言えない良い匂いがする。
微生物だか、なんとか菌だか知らないが、
生きている匂いと言うものは、香ばしい。
臭いとは思わなかった。
気味の悪い白いものが所々に繁殖している。
死を忌み嫌う人間社会に酔った自分の目には、
生きることの不気味さがより鮮明に映っていた。
湿った草や土の匂いは、
時代なんぞを飛び越えていて、本当でしかない。
虫の幼虫がおやすみをしているのが、
何よりの証拠に思えた。
風呂に入った後、一杯やりながら、
ふとテーブルに、
チョコレートが置いてあるのに気づく。
ここの所の初夏を思わせる陽気で、
チョコレートは随分柔らかくなっている。
一口食べたが味は落ちていなかった。
手につくほど柔らかいチョコレートは、
いつもは見つけられない味を、
さりげなく啓示していた。
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