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酸ヶ湯温泉湯治 2024年師走の巻

12月に入った途端に平地でも大雪。この週末には寒気団が列島をすっぽり覆い猛吹雪の予報。そんな中、酸ヶ湯温泉冬の湯治にでかけた。この日はなんと3台の送迎バスが出動したそうで、酸ヶ湯温泉の人気は衰え知らず、である。

全国的に豪雪で知られる酸ヶ湯温泉。今でこそ山道に除雪車が入るが、悪路であることに変わりはない。冬場の湯治は夢のまた夢。悲願だった酸ヶ湯温泉の冬季営業が叶ったのは、今からわずか40年前なのである。

送迎用大型バスは青森駅前14:00発 冬は90分弱で到着

半年ぶりに酸ヶ湯温泉旅館湯治棟3号館の連泊である。一日目は自炊、二泊目は夕飯のみ湯治食をつけて予約をとった。

いつもの湯治棟3号館
二人分の寝具が押し入れに  

館内廊下はさすがに冷え冷えしているが、部屋に入れば全館暖房で申し分なく暖かい。各個室で温度調節は出来ないので、暑くなったら窓の二重サッシの開け閉めで調節する。

売店でいつもの「酸ヶ湯ペールエール」を買って、炊事場で今晩のつまみを作る。青森の特産、叩いた長芋にシラスと大葉、片栗粉を混ぜて、フライパンでカリッと焼く。フライ返しが無くてちょっと苦戦した一品。

いつもの酸ヶ湯ペールエールと長芋のおやき

早朝、雪明りで目が覚める。
ホワイトアウト状態の中、朝早くから除雪車がひっきりなしに動いている。アメダスによればこの時の気温はマイナス6.4℃

早朝の猛吹雪、中ほどに除雪車のライトがかろうじて見える

宿泊客の多くは、午前7時ともなれば朝食会場に向かう。私もこの時間帯に合わせて朝食の準備をする。
フライパンでマフィンのバタートースト。ブロッコリーの削り節和え物、ゆで卵など。売店で買った酸ヶ湯温泉旅館の喫茶「ぶな林」のオリジナルコーヒーも。

フライパンでトーストしたマフィン トースターがなくても美味しい

午前8時過ぎにのんびりヒバ千人風呂に行く。初日は洗髪のためシャワー付の内湯「玉の湯」にしたが、二日目からは混浴ヒバ千人風呂の自然湧出の「熱の湯」を存分に堪能しようと決めていた。

酸ヶ湯公式サイトより 「ヒバ千人風呂」 手前が「熱の湯」

既に還暦を過ぎたご老体といえども、混浴の敷居は意外に高い。手拭いを巧みに操ってするりと入ってしまえば何という事も無いが、まだまだ修行が足らぬ身。だから、ついにネット通販で手に入れた自前の湯浴み着を着て、ふやけるまで風呂三昧しようと勇んできたのだ。

このところ、酸ヶ湯温泉では湯浴み着はかなり定着している。売店では女性用のワンピース型だけではなく、男性向けの半ズボン型もレンタルされていた。今やヒバ千人風呂は湯浴み着だらけで、特にカップルや夫婦で着用するケースをしばしば見かけた。どちらか一方が裸というのが、かえって居心地が悪いのだろうか。風呂がまるでプール化していた。

脱衣所の簡易脱水機 これに濡れた湯浴み着を入れて脱水する

湯から上がると千人風呂の脱衣所に簡易脱水機があるのを発見。一度湯を吸った湯浴み着はここで脱水すればよい。湯浴み着の定着とともに現れた新しいサービスだ。これで15分ほど脱水して部屋に干しておいたら、次回の入浴時にもなんとか支障なく着られた。

湯浴み着は確かに便利である。湯浴み着のおかげで、混浴を敬遠する多くのひとたちも湯を存分に愉しめる。でも、なぜだか後ろめたく、ひっかかるのだ。

時代と共に姿を変える「酸ヶ湯ヒバ千人風呂」 衝立がなく開放的だった

日本人にとって湯に浸かるというのは、単なるリラクゼーションではない、療養だけでもない。身体を清め、まっさらに生まれ変わるための禊の感覚を持っている。だから、新年を迎える大晦日には必ず湯に入り身を清めるではないか。

(✳なんとここでインフルエンザ罹患!そのまま令和7年を迎えてしまった)

令和7年1月3日夕方のNHKニュースでは、青森県は大雪の影響で酸ヶ湯の積雪はついに4メートルに達したと報じていた。豪雪下、弘前市の桜の名所「弘前公園」にも倒木等の甚大な被害がででいるとか。

繰り返しになるが、酸ヶ湯温泉の冬季営業がかなったのは、つい約40年前のこと。1982年の東北新幹線開業と共に青森県肝いりの観光政策と除雪対策が進み、やっとこの悲願が叶ったのだ。

その当時の酸ヶ湯温泉の賑わいを知ることができる写真が館内あった。湯治棟3号館のギャラリースペース「神舞閣」だ。

湯治棟3号館 ギャラリー「神舞閣」
「神舞閣」に展示されたモノクローム写真資料

小さな写真をのぞきこむと、映っているのは相撲のまわしを締めて立つ凛々しい男たちだ。これはまさに祝祭の場面。今どきの猫背姿勢の男など、どこにも存在しない。

別の写真には、かつて存在した「酸ヶ湯温泉駅舎」を背景に、土俵に集まる男たちと観戦の人々がひしめきあって映っている。神事としての相撲奉納だ。酸ヶ湯温泉まで初めて旧国鉄バスが開通。旧国鉄バス北十和田線のバスターミナルが「酸ヶ湯温泉駅舎」だ。

相撲まわし姿の男たち
写真の後ろに、国鉄酸ヶ湯温泉駅の三角屋根が見える
裸身堂々とした女たち

どの写真の男も女も裸身が眩しく、飾り気のない屈託のない表情をしている。これら写真を飽きずに見ていたら、教えられた気がした。
時代の空気の違いはあれど、必要以上に他者の視線に身構えなくてもいいのでは?と。

最後に二泊目につけた湯治食について。
いわゆる宴会用ではないお膳なので、酒を酌み交わす様子もなく、旅館食とは別の会場の食堂で、皆一人で静かにお膳をつついていた。ハレとケがあるならば、ケのお膳、普段着のお膳というところか。ブランド米つがるロマンの御飯に鰤と山菜の煮物など。刺身や天ぷらなどの一品料理も追加注文できるらしく、これで晩酌していた人もいた。

この日の湯治食 左手前は暖かい鰤の煮物

一人湯治の良さは、なんといっても気兼ねなく自分のしたいように時間を使えること。そしてお湯の力に心と身体の解放を委せること。年齢と共に頑なになりつつある心身を、今年も温泉を味方につけてなんとかほぐそうと思っている。


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