瀬戸内晴美 京まんだら を読んで
Yahooニュースの記事で瀬戸内寂聴(出家前は瀬戸内晴美)が取り上げられると、ほぼ本人を非難するコメントが多くなります。理由として1番大きいのは、夫の部下と不倫の末、我が娘と離別したことだと思います。
確かにその行動は褒められたものではないと思います。しかし、その行動ゆえ、彼女の文学作品の素晴らしさが伝わらないのも惜しいなと思います。
今回は、「京まんだら」の読書感想文を書いていきたいと思います。
1 まんだらとは
まんだらとは、仏様の世界を描いた絵のことです。中心に大きく描かれた仏さまがいて、その周りを小さな事で沢山の仏様が取り囲んでいます。
「京まんだら」は、お茶屋や旅館などを多角経営する祇園の雪村芙佐と、東京で出版社を経営する植田敏子を中心に、彼女達の関係者の人生や恋愛模様を描いた作品です(まるでまんだらのように)。舞台は京都と、それと対をなす東京となっています。
2 沢山の登場人物
本当に沢山の登場人物がいて、それぞれの人生と恋愛模様が描かれています。しかし、描写のボリュームがちょうどよく、読んでいても混乱することがありません。
3 雪村芙佐と植田敏子の対比
沢山の登場人物が描かれながらも、この2人の人生と恋愛模様も詳しく描かれています。
2人は舞台が違うものの、敏腕の経営者。しかし恋愛に対する姿勢は対照的です。
雪村芙佐は二股をかけることはありますが、自分の犠牲を顧みず恋愛に没頭するタイプ。捨て身で男性に尽くします。また、ひどい失恋を経験しても、自分で自分の傷を癒やし、また新しい恋に挑んでいきます。
植田敏子は、今まで燃え上がるような恋をしたことがありません。経営する会社の社員で、一回り年下の社員に恋をしながらも、世間体が気になり、なかなかアプローチできません。
対照的な2人の姿勢ですが、わたしはどちらも素敵だと思いました。雪村芙佐のように恋に没頭する姿は潔くて、実現できなさそうだからこそすごいと思います。植田敏子の、恋にためらいを感じる姿勢は、共感できるとともに、もっと頑張れ!と応援したくなります。
4 雪村芙佐と娘たち
雪村芙佐には3人の娘がいます。
3人の娘を宝物のように育てたからこそ、自分と意見が合わなかったとき、自分の元を巣立っていくときの寂しさと悲しさ。
1番ソリが合わないと思っていた長女と、長女に降りかかった悲劇がきっかけで和解したときの、長年とわだかまりが解けた喜び。
親子関係のあれこれも描かれており、とても興味深く読み進めていくことができます。
4 この小説のテーマ
この小説のテーマは、どんな逆境でもしなやかに生きること。傷ついても立ち直り、前に進むことだと思います。
雪村芙佐の人生は波乱万丈です。持ち前の頭の良さと、逆境を生き抜く強さを持って、ピンチを切り抜けていきます。
植田敏子の恋は悲しい結末を迎えますが、傷を抱えながらも、自分の人生を真摯に生きていこうと前を向きます。
2人以外の登場人物の有様にも、このテーマを感じ取ることができます。
この物語を読むと、恋愛模様にときめきを感じるだけではなく、背中を押してもらえるような気持ちになります。