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「触れる」を考える②:目に見えないものを大切にする
ハンドリングやタッチ、動作の介助や誘導といった「触れる」ことでの介入の難しさと大切さについて、前回はお話ししました。
前回の記事👇
目に見える変化にばかり、目を向けていないか?
運動学習の大きな勘違い
若き日のこまつは、ハンドリングだけでなく姿勢や動作のどんな介入時にも、「目に見える」「数値化できる」変化を重要視していました。
左右非対称な姿勢が、少しでも左右対称になり、正常から逸脱した歩行などのパターンが、教科書的なパターンに近づくこと、また様々な評価の数値が向上することを「良くなること」だと思っていました。
だって、それしか学校でも実習でも習わなかったもの(こまつが授業を真面目に聞いてなかった可能性もありますが…)
だからハンドリングも、立位や歩行でお尻が引けてしまう時には、僕の手でお尻を後ろから押し出し、体幹が前傾してしまう人には、僕の力で体幹を起こしていました。
今となっては、それをハンドリングと呼べるかすら怪しいですが、当時の僕は、
(無理矢理でも)
良い姿勢・動きのパターンを繰り返せば、
体が覚える:運動学習につながる
と信じていました。
ところが現実はそんなに甘くありません。
引けたお尻を戻そうと、僕が後ろから押しても患者さんは嫌がって、僕の手を押し返してきます。
人によってお尻を出す(股関節伸展)ことができる人もいます。
でもお尻が出たと思ったら、上半身を無理に捻ってしまったりして、股関節は進展したけど今度は体幹が正常から逸脱してしまう…というイタチごっこ。
見た目の姿勢や動きを良くしたい、そしてそのためには(外見上の)良い姿勢・運動を(強制的にでも修正して)繰り返せば、いずれ体が覚えていくんだろう…
というこまつの安易な考えは、いきなり壁にぶつかります。
目に見える姿勢や運動は結果でしかない
そもそも、徒手で強制的に良い姿勢・運動を修正・誘導しようにも、その通りに患者さんは動いてくれないし、嫌がるような反応ばかりが出てくるんです。
なぜ、目の前の方はお尻を引いて立ち、歩くんだろうか?
ここに一旦戻って考えてみます。
この方だって、本当はお尻を引かずにキレイに、上手に歩きたいはず。でもそれができないから困っている。無理矢理にでも出してできるくらいならとっくにお尻を引かずに歩いているんじゃないか?
と。
そう考えると、この方はお尻を出せない、または出したくない理由があるんじゃないか?と。
この方は、大腿骨頸部骨折の方でした。
なんで出せないのか一度その方に聞いてみました。
すると、「ここ(股関節)を動かすと痛い気がして怖いの」という答えが返ってきました。
実際には術後数週間経っており、炎症反応も落ち着いている。股関節の関節可動域も歩くのには支障がない程度。筋力も手術をしていない側と比べれば、少し弱いものの、歩くのには影響しないと思えるレベル。
ベッド上での股関節の運動はできる。でもいざ立って、歩こうとすると途端にお尻を引く。上半身も反対側に傾きやすく、手すりや平行棒をしっかりと掴んでいる。
数値的な評価では、上手に歩けない理由が見当たらない。
でも事実、上手く立ち・歩くことができない。
患者さんも怖いと言っているし、立っている姿勢も体重をかけたくなさそう…
ここで自分の過去を振り返ります。
僕は学生時代、柔道をやっていました。
足首の捻挫やら膝の靭帯損傷、肩の脱臼も経験しています。
足首やら膝の怪我は日常茶飯事で、病院に行ったところで安静と湿布くらいなもんだったため、病院に通うことはなくなり、市販の湿布と自己流のテーピングくらいで、対処していました。
でも時折また再発していました。
理学療法士の専門学校に行ってた頃には柔道もしなくなっていましたが、学校の体育祭でバレーボールをやった時に、ジャンプして片足で着地した瞬間に膝崩れが起き、しばらく立てなくなりました。
数日間は痛みがありましたが、その後は痛みがなく、日常生活では何も違和感を感じなくても、それ以来ジャンプして片足で着地は怖くてできません。
20年経った今でもです。
一回の激痛の体験で、僕は「左膝は片足で着地すると危ない」という認識をしたようです。
数値的に良くなったとしても、その人自身が自分の身体を信用できていない、痛みが出る気がしている、限りはどれだけ力がついても、関節可動域が良くなっても、体重をかけたくない歩きになってしまんじゃないかとその時思いました。
お尻が引けている、は結果でしかない。
その後、その方と話していく中で、その方が自分の手術した脚・股関節に対して、
体重をかけると痛くなりそう
入っている金属がグニャと曲がらないかと不安
突っ張る感じがする傷口が避けないか
などの不安を感じていることがわかりました。
その後は、術式や入っている金属についてや、傷口は治っているけど柔軟性が減っていることからくる突っ張り感であることを説明し、徐々に体重をかけながら痛みがないことを確認し、「この脚に体重をかけても大丈夫」「このくらい(のい荷重なら)痛くないし、びっこを引かずに歩けそう」な範囲で進めました。
本人の不安に合わせながら、かつ実際の能力に合わせて徐々に体重をかけながら、足への信頼を取り戻しながら介入を進めることで、最終的には不安なく歩けるようになりました。
目に見える結果を生み出す理由は、目に見えるとは限らないんじゃないかと思うようになるきっかけです。
ハンドリングも、最終的には外見上観察できる姿勢や運動の変化を目的にします。
でも介入は、目に見えるものだけでなく、本人の主観的な体験や思いを汲みながら進めていきます。
体だけでなく、心に対しても同時に介入することが大切ですね。
その目に見えない部分をどう捉えるか?が難しいわけですが、この話はまた今度に。
【こまつの活動】
◼️人材育成
・名古屋・東京での定期的なセミナーの開催:日曜
・名古屋での不定期なナイトセミナーの開催:平日夜
・法人研修:リハ・介護施設スタッフの技術指導
◼️自費リハビリ
・名古屋を中心に愛知・岐阜・三重への訪問自費リハビリ
などを行なっています。詳細は以下のリンクより👇
◼️自費リハの無料体験予約・講師やお仕事の依頼は以下のリンクより
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