見えるけど見えていないものVol.2
3月、私の生活の中でいくつかの変化があった。
ひとつは、芸術作品をよく見て、事実や感じたことを文字化する訓練を始めたこと。
これは、『「自分だけの答え」が見つかる13歳からのアート思考』 末永幸歩 著 ダイヤモンド社
という本の中で紹介されているアウトプット鑑賞をヒントにしたものだ。
この取り組みを始めたのは、取得しているアートセラピー系の民間資格に関する活動の幅を、今後広げていきたいと思っているからだ。活動の中では、参加者の作品を鑑賞して感じたことを言葉で具体的に伝えるスキルが求められる。
訓練のやり方は簡単で、まず好きな芸術作品を一つ選ぶ。そして作品をよく見て、事実を文章で書きだす。例えば、「全体的に赤色で塗りつぶされている」とか、「小さな円が右上に描かれている」とかそのような感じだ。次に、その事実に加えて感じたことや推測したことを文章化する。時間が許せば、作品から物語を創造してみる(全く勝手であるが)。
やってみて気が付いたのは、表現力のない私でも、思ったよりも多くの事実を文としてアウトプットできること。そして、よく作品を見れば、気づかないような小さな表現が目に留まるようになること。
一見、落ち着いた赤と黄で秋をテーマに描かれた抽象画にも、叩きつけたような暗い青の点やひっかいた傷が見え、冷たい激しさの痕跡がある。これはどうしてだろう?
こんな風に、些細なことをヒントにして疑問が生まれ、考える。
答えを求めるのではなく、ただ考える。
脳のしくみか、私たちは思っている以上に事実が見えていないのではないだろうか。見えていない全てを見ようとする必要はない。でも、よく観察すれば見えるはずの事実に気づき、誰かの助けになれるのなら、私はそれに気づきたい。