「プレイヤーからマネジャーへの転換」vol.7
2019/06/07 野元義久
企業における最も古典的な断絶であり、ダイバーシティ対応への鍵ともなる、
「”優秀な個人プレイヤー”から”チームを率いるマネジャー”への転換」をテーマに連載しています。
月刊人事マネジメント(株式会社ビジネスパブリッシング)
今号は「経験から学習するスキル」です。このスキルの差こそが、プレイヤーとしてだけでなくマネジャーとしても私たちの成長度を(成長だけでなく、面白みも)大きく左右します。前号まででおすすめしてきた“チームによる問題解決”においても、問題が解決できたか否かだけでなく、その取組みの経験から何を学べたのか、次につながるヒントを見つけることができたのか、が大切です。今回は問題解決の進め方へのヒントだけでなく、職場メンバーの成長に寄与する働きかけを紹介します。
vol.7 ◆◆経験から学習するスキルを備える◆◆
成功の“兆し”に着目する
経験から学習するためには、“どんな経験をしたのか“を認知することが必要です。
私たちの行動によって何が起きたのか、この具体的で客観的な観察から始まります。ここで陥りがちなのは、「良かった」あるいは「上手くいかなかった」という自身の解釈に留まってしまうことです。起きたこととそれを解釈することは異なります。
さらに、「上手くいかなかった」サイドからの観察に終始してしまう人も良く見受けます。真面目な人ほど、現状と望ましい姿とのギャップに目が行き、もっとアクションしなきゃいけないぞと自分を奮い立たせる傾向があります。要するに「これまで出来たこと、進んだこと」サイドが目に入らない。これは日本人だからなのでしょうか?もちろん私もその傾向が強いわけですが、意識的なのか無意識なのか、もはや癖になってしまっているのか・・気になります。
経験からの学習のためには、「出来たこと、進んだこと」サイドの情報が大切です。小さな変化、兆しでも良いので焦点を当ててみて、それがなぜ上手く進んだのかを考えることから次へのヒントが見つかります。
質問で教訓を見つける
丁寧に掘り下げて次へのヒント(新たな教訓)を見つけるために「なぜ上手く進んだのか」を問うていきます。これは自分で自分に問うのが難しく、周囲の力を借りると良いでしょう。かえって詳しい事実を知らない人の方がシンプルな質問を投げかけてくれるので、問われて気づくことが多いのです。
この「質問で相手の振り返りを促す行動」を内省支援と言います。職場において各方面から内省支援がなされると当人が成長しやすくなるそうです。マネジャーとしてメンバーの成長を促進するためにも内省支援は重要です。
この研究結果を聞いて、私は30年前の上司の問いかけに合点がいきました。営業として新規開拓のために朝から晩まで法人訪問して帰社するのですが、マネジャーから私への質問フレーズは決まっていました。
「どうだった?」
「次、どうするの?」
「なんで、そうするの?」
この3つを発するだけなのです。省エネなマネジメントです(笑)
しかし、この3つの問いがD.コルブ氏の提唱する経験学習モデルを私が自律的に回せるようになるためのキーフレーズだったのです。毎日訊かれるので、帰社前にはこの答を整理しながら準備します。自分で考える癖を授けて頂いたことに感謝しています。
一つ上の仕事を担うために、自身の取組みからの学びを進めることに留まらず、後輩の学びを質問で促進する試みを始めてみてはいかがでしょう。
実践性のある教訓を導く
次に教訓の質をみてみましょう。
例えば、「上手く進んだのはキーマンに動いてもらえたからです!」というところまでたどり着いたとしましょう。このレベルで新たな教訓が見つかったと言うのは拙速です。なぜなら、キーマンに動いてもらうと上手く進むというのは、誰もが知っていることだからです。これでは他の人にも参考になりません。
この場合、もう一歩、問いを進めます。
「なぜ動いてくれたのか?」
「どう動いてもらったのか?」
「動いてくれない場合とは何が違ったのか?」
「そもそもキーマンをどうやって見つけたのか、キーマンにたどり着けたのか?」
このレベルで答えていくと、他の人にも参考になるヒントが見つかります。ここでも“当たり前のことを普通にやっただけです”と答える人がいます。謙虚過ぎるのか、自分の行動に無自覚なのかはわかりませんが、この“当たり前”に新たな教訓が眠っているはずなので逃さないで掘り下げてみてください。
教訓を導く仕組みをつくる
前述したように、内省支援が行き交う職場は互いの成長を促進します。それだけでなく、教訓が伝播する職場は仕事の質も上がっていくはずです。さらに、新たな発見が自分たちから生まれるという雰囲気が職場に活気をもたらすのです。これを上手く活かしましょう。
効果的な内省支援が職場で継続する仕組みをつくるのです。最もお勧めする仕組みが“定例会議”です。各自のプロジェクトの進捗報告や営業案件の見込み度チェックに留まらず、1つでも2つでもメンバーの仕事を取り上げて、上手く進んだことから次に活かせる教訓を導き合うのです。これまで数多くの会議コンサルティングを担ってきましたが、“上手くいかない案件をどうするか?”の話し合いで終始する組織がほとんどなのです。もったいない。“上手くいった案件から何が学べたか?”“どんな工夫がなされたのか?”という時間の方が楽しいはずです。