『みんなで育てる仕組みづくり』vol.5 最終回
2020/04/03 野元義久
月刊『人事マネジメント』に掲載の「みんなで育てる」仕組みづくりを
5回に分けてご紹介しております。
vol.5 最終回◆◆「みんなで育てる」準備◆◆
「みんなで育てる」準備
これまで、新人を含む若手の指導育成において、一人に頼り過ぎず、寄ってたかってみんなで育てる方法を3つのパートに分けて紹介しました。
① 「みんなで育てる」フォーメーション
② 「みんなで育てる」プロセス
③ 「みんなで育てる」コミュニケーション
この方法をはじめる前に準備しておくとよいことが3つあります。
1) 育てられやすい態勢をつくる
2) “育てにくい”ということを心得ておく
3) 研修内容を基準にする
■育てられやすい態勢をつくる
指導対象者に“どんな人なら、メンターが育てたい・育てやすいと思うか?”を聞きます。
・素直である
・自分から行動する
・意見を言う
・まずは明るく挨拶する
およそ想像通りの答えが返ってきます。指導対象者もわかっています。これは答の内容よりも、答を考える中で“自分ができているか”という振り返りをしてもらうことが狙いです。育てられる側も指導を受けいれることに責任を持ってもらう必要があります。
■“育てにくい”ということを心得ておく
これはメンター側の心得です。私はふだん「人を育てるという考え方はおこがましい」と思っています。人は育つもの、人はみんな育ちたいはずだと考えています。メンターはそのニーズが実現されていくサポートをしているに過ぎません。花が水を求めているかどうかを観察して、必要そうな分だけ水を差すのと同じで、花にはそもそも花を咲かせる力が備わっています。それぞれの育つペースや向きがあるので、こちらの思い通りにはなかなかなりません。
自分が育てると思った瞬間に、自分のコンテクストの押し付けがはじまると思います。思い通りに育てるという時の「思い」はまさに自分のコンテクストです。
「私が彼を育てたんだ」という人はうさんくさいですね。すいぶん経ってから「私はあの人に育てられた」と思い出してもらえるくらいでちょうど良いと思います。
■研修内容を基準にする
各社で実施している新人研修は質が高くなっています。特に入社すぐの新人研修で教えられているPDCAやロジカルシンキング、チームビルディングなどの内容を完璧にできれば、相当なビジネスパーソンになれます。指導対象者に備えてほしいスキルはすでに研修されています。
メンターチームはこれらの研修で教えている内容をふだんの仕事に置き換えてあげれば十分です。たとえば「今言ったことが、ロジカルシンキング研修で習った“分ける”ということだよ」という感じです。メンター側にも復習になるかもしれません。
■「チーム」で分かち合う
働き方改革、イノベーション、インクルージョン……きっと私たちはこれからも変革を求められます。よほどうまい戦略を描かなければ、厳しい競争環境にさらされ続けます。現場を担う人たちの気持ちが休まることはなかなか想像できません。
自分一人のことだけでも大変なのに、まだそんなに貢献できない若手を育てるのは大変な役目です。会社や人事から育てる役目を任されるのは、仕事の成果も向き合う姿勢も十分に信頼できる現場のエースでしょう。他にもたくさんの期待を受け止めているでしょうからなおさら大変です。大変さゆえに時には後回しになってしまうことがあっても責められないと思います。
一人を責めるのではなく、チームという仕組みでカバーする。
メンター・メンティー制度は指導のブレをなくし、育てる責任を明確にするという効果がありました。しかしこの制度の懸念は“メンターに責任を押し付けてしまう”ことです。他の人はメンターに遠慮して指導の手をひっこめることもあったと思います。
育てる責任を一人ではなくチームに課すことで無責任状態を回避し、少しの力を出し合ってみんなで育てるというシェアリングモデルです。
若手を育てるプロセスを通じて、職場がチームになっていくことを願っています。
そして最後に、この稿が書けるまでの実践的なノウハウを共につくってきた、たくさんのお客様に感謝します。