真面目なスツールーシンプルの余地
このスツールはUNOHでお世話になり、すぐの頃に手ほどきを受け制作した物です。
ナラの座板と栗の脚の素朴で、ごく平凡なスツールだと思います。
この基本的でシンプルなスツールの構造と作業工程には、木工の基本とシェーカー家具の制作や考え方にも通ずる経験と学びの余地が詰まっていました。
座板における『板矧ぎ』はシェーカースタイルのテーブルやデスク、ベンチを製作する上でも欠かせない作業です。
シェーカースタイルの椅子においては、特別に幅の広い木材を要することはないので、イメージがないかもしれませんが、家具全般を復元、製作するUNOHではテーブル、カップボード、ベンチなど、板物の仕事も少なくありません。
スツールの貫に関わる『ホゾ』組の構造も、例えば引き出しのあるライティングデスクでは、より立体的になり、都度部材や加工が変わる、そういったある種の延長線上にあるとも考えられます。
椅子として考えると、座に板を利用せず、部材を丸棒に加工し、後ろの脚柱は延長。それが背もたれになっている。
座板で止まらないそれぞれの脚柱の先はどのように始末をつけるか?など
このように順に考えを巡らせるとこの椅子が『シンプル』であると言われる、もしくは感じる構造的、デザイン的な所以も垣間見ることができます。
また材料については、タイミングも合い工房周辺の木材を使わせていただきました。
暮らしの道具、仕事の道具を身の回り材料を使って賄うということは、私たちの世代にとってはとても豊かで健康的なことに思います。
シェーカーの人々もメープルをはじめとしたコミュニティ周辺の木材を利用して家具制作を行いました。
物流がまだ発展する前の時代ですから、それは当たり前のことだったのかもしれませんが、自給自足を謳ったシェーカーの考え方からすると、周辺の材を扱うということは、よりシェーカーらしい意味合いがあったのかもしれません。
UNOHでも私たちの風土に合った地域材、国産材の利用とオリジナルにリスペクトを込めたメープル材の利用とのバランスは、常々話題に上がり関心の高い点でもあります。
構造、材料、加工、道具。
基本を学ぶことはその後の応用や、より複雑な物への下地として存在しているように感じますが、一方で、ただ『シンプル』と言われ続けるシェーカースタイルには、関わるほどに疑問や発見が生まれます。
『シンプル』であるからこそ、考える余地があり、多くの学びが詰まっている。
そんなことを改めて感じさせてくれる、真面目なスツールです。