オーバルボックスから知る
シェーカーの物作りを代表するアイテムのOval Box オーバルボックス。時代、コミュニティによってさまざまなサイズで作られたオーバルボックスは、住居や作業場で利用され、ハーブやスパイスの保管や粉末状の物や釘、ボタンのような細やかな物から、液体を除いてはほとんどの物を収納する用途に使われていました。
サイズの多様さやその数には、シェーカーコミュニティにおける整頓、収納の重要さがよく現れています。
UNOH Oval Box No.0 to No.5 (Maple)
シェーカーのオリジナルの主要材はしなやかで丈夫であり、曲げ加工に適したメープル、底板には当時の北米で安価でかつ軽いマツ材を使用していました。容量が大きくとも軽量で、丈夫さを兼ねるための木材の選定です。
視覚的な色味や材の統一性よりも、木材自体の適性と部材効率、コスト面などを優先した考え方は彼らの合理的な考えに基づいており、シェーカーの人々のものづくりにおける選択の基準が「見た目の綺麗さ」だけではないことがわかります。
一方で、一見、装飾的な要素に思える「スワローテイル」や「フィンガージョイント」と呼ばれる接合部分は、経年による木材の変化やストレスを軽減し、釘の負担を分散するための工夫として採用されており、見た目だけではなく機能面に需要な細工でもあります。
ここには、シェーカーの人々の「無駄な装飾は排する」という節制の考えと、「有用で、必要であるのならば美しくする」という美的なセオリーがバランスよく現れている一例であります。
決して「見た目の良さ」を蔑ろにするほどのストイックな合理主義を貫いたわけではないことも同時に示唆しています。
また、この「スワローテイル」を図録や史料で眺めていると、大きさや細さの異なる物や、通常とは反対向きのものなどの手作りならではの微妙な違いに気付きます。
シェーカーの人々が、自分たちの生活、道具として作り、使う上で、過度な加工の同一性よりも、形の奥にある機能や用途こそ、彼らにとっての必要要件であったとも捉えることができます。
こういった細やかな違いが単なるミスであったのか、はたまた、木材の変色を防ぐための銅釘の使用や、より安定した楕円形を成形するための乾燥型にみられるような、彼らのより良いものづくりへの試行錯誤であったのか、と考えを巡らせると非常に興味深いものです。
加工やディティールに彼らの精神性の特徴的な部分を発見できるという点でも、オーバルボックスは非常に多くの学びがあります。
18世紀末、コミュニティの創設からほどなくして製作されて以来、オーバルボックスは各コミュニティで、さまざまな作り手により作られてきました。同時に、大量に作る場合にはある決まったコミュニティで作られるのが通例であったようです。(アルフレッド、ザバスデイレイク、カンタベリー、ニューレバノンなど)
早いうちから熟練職人がコミュニティを渡り、技術指導や質の平均化を測っていたシェーカーの物作りですが、技術的な指導だけでなく、各コミュニティ間で仕事の分担を含めた連携が為されていたことがわかります。
また部材の準備が整えば、シンプルな加工作業となるオーバルボックスは、熟練度に関わらず多くの信徒が作業に携わることができ、なおかついずれのコミュニティでも需要の高い道具でした。コミュニティにとって、新規の信徒も参加可能な、労働機会の提供として、オーバルボックスは最適な物であったのではないでしょうか。
こういったシェーカーの組織的な活動のあり方を、オーバルボックスの製作背景に見ることができます。
オーバルボックスについて考えると、こういったさまざまな視点でシェーカー人々の考え方やあり方に触れることができると同時に、シンプルな加工でありながら、達成感や充実感を得ることのできる造形的な美しさを持つオーバルボックスの奥深さを作る度に再確認します。