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ホタルの光と光害問題について

新緑だった街路樹が重たげな濃い緑となって、もりもり盛り上がっている。放置されている葛の葉は信じられない速度ですべてを包んでいく怪物のようだ。空気は湿気をまとい身体にまとわりつくようになり、歩いていれば5分で汗が出てくる。さわやかさがうっとうしさに変わる季節になった。

そんな初夏の気だるさだが、夕方以降は涼しく快適だ。山に面した小川付近や、農業用のため池などにぽつりぽつりと、頼りなげに飛ぶホタルの光を確認することができた。数は多くない。ホタルを探して歩いていたわけではないので、こんなところにいるのかという驚きが大きい。

蓮華寺池公園、知の泉

藤枝市の蓮華寺池公園では、ホタルの住む環境を取り戻そうと力を入れている。池の奥まったところにある音楽堂を超えると、梅園と小川があり、そこにホタルの幼虫を放流しているようだ。幼虫を育てる時期には水中に石で重しをしたキャベツがしかれている。

しかし蓮華寺池公園のホタルはそれほど多くない。5月から6月の夜には、ランニングや散歩をする人に混じり、音楽堂方面に足を向ける家族連れやカップルが増える。しかしそこに期待にそえるような数のホタルが見られたことは、自分の記憶上ではない。数個の光が見えるか、1匹も確認できないことがほとんどだ(SNSを見ると多く飛んでいた時もあるようだが……)。

蓮華寺池公園、音楽堂裏の梅園

蓮華寺池公園は自然豊かだ。小川の水は澄んでいて、ホタルが住むのに十分過ぎるほどの水質を保っていると思う。周辺の緑も申し分なく、幼虫が食べる餌は支給されているから至れり尽くせりだ。しかしそれほどの努力をしてもホタルの乱舞を見ることはできない。これはなぜだろう。

夜の蓮華寺池公園、街灯で非常に明るい

自分の推測では、蓮華寺池公園が明るすぎることが問題ではないかと思っている。『暗闇の効用』によると、現代は人口の明かりが増えすぎたことで、鳥や昆虫、植物などに多大な悪影響が出ているという。生殖活動を自身で発するほのかな光に頼っているホタルは、光害の影響を受ける昆虫の代表格だ。いかに自然の多い公園であっても、街灯や公衆トイレから漏れる明かりはホタルの発する光よりもはるかに強い。強すぎる光があることで、ホタルはまだ夜ではないと勘違いして光ることをやめてしまったり、雄雌がお互いの光を認知できなくなり生殖活動が上手くいかなくなってしまうそうだ。

たしかに、自分が散歩していてホタルを見た場所を思い出してみると、住宅や街灯、車の通りが極端に少ないところがほとんどだった。水質がそこまでよくない場所でもホタルがいることはあったので、そこそこの綺麗さがあれば生活はできるのだろう。そうなると、ホタルの繁殖には「暗闇」が重要な鍵になっているという意見が、あながち的外れとは言えないように思えてくる。

島田市側から眺めた藤枝市、非常に明るい

蓮華寺池公園にホタルが少ない理由はもちろん、他にあるかもしれない。しかし夜でも公園内を歩けるように配慮した(し過ぎた)強すぎる街灯は、皮肉にもホタルを遠ざける一因になっているのではないだろうか。水質よし、緑よし、餌よしで難航しているのなら、次は暗闇に着目してみてはどうだろう。

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