短編小説「笹の葉の願いごと」(前編)
割引あり
これは自分が体験した不思議な出来事で
6年間誰にも話せず、
心にしまっていた話です。
きっかけは彼女の死でした。
彼女とはバイト先で知り合いました。
と言っても
バイト自体はすぐ辞めてしまったので、
一緒に働いていた時間はわずかでしたが
まあその短い時間で、
すっかり彼女のことが
好きになってしまったのです。
彼女はなんというか、
ちょっと変わっていて。
無口で無表情、おまけに霊感が強く、
たびたび天井をボーっと眺めてたりする
いわゆる不思議ちゃんでした。
一緒にでかけたりしても、
突然立ち止まって
何もないところを見つめているので
「どうしたの?」と聞いたら
「うん、ちょっと」って。
ああ、たぶん何か
見えてるんだろうなって思うけど、
自分には霊感なんてないので、
彼女に何が見えてるのかわからないし、
彼女も詳しく話そうとしませんでした。
というか彼女は、
普段から必要最低限のことしか
喋らないというか、
むしろ必要最低限のことすら喋らないし
表情筋があるのかさえ怪しい。
正直言って何を考えているのか
わからないところがありました。
そんな彼女は人付き合いにも無縁で、
周囲からも避けられていました。
けれど、自分は7人兄弟の真ん中だからか
そんな彼女の不思議なところが
あまり気になりませんでした。
むしろ、彼女と過ごすうちに
ちょっとした彼女の表情の変化に
気づくようになって
あ、これは喜んでるときの顏だな。
とか
これは不満なときの顏だな。
とか
そういうのが
なんとなくわかるようになってきて、
そんな時は、
まるで彼女の心に触れたような気がして、
そのことがとても嬉しかったんです。
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