都市のアウトサイド・リビング 原宿~表参道(建築物語 番外編)
今回はテーマを決めて建築を紹介していきます。原宿〜表参道を歩き、あるテーマに絞った商業施設を見ていきます。集密都市の真ん中にありながら、屋外のテラスが心地よい、そんな都市のアウトサイド・リビングをもつショッピングモールを見ていきましょう。
01.ウィズ原宿
今年(2020年)にオープンした、JR原宿駅前の施設です。低層が商業施設、高層部が賃貸住宅となっているコンプレックスです。
設計は伊東豊雄+竹中工務店。伊東豊雄さんについては、以前に北九州市にあるぐりんぐりんを紹介しました。ぐりんぐりんでは、有機的な形態の構造がコンセプトとなっていましたが、このウィズ原宿の構造は、他のビルと同じように柱・梁で構成された建築となっています。
木のテクスチャーや、屋上緑化がふんだんにファサードに現れています。
ビル的というか、構築的なかたちなのは否めませんが、多層に積み重ねられた公園のような印象です。約26,000㎡と大規模な施設ですので、原宿の新しい景観をつくりだしています。
エントランスや通路などの動線はすべて屋根付きの半屋外空間となっており、外の空気を感じながらショッピングが楽しめる、路面店のような空間性となっています。
アップダウンするデッキは、回遊できるようになっており、歩いていて楽しい、立体的な街路空間となっています。
奥行き3メートルほどのテラスに面してカフェがあり、テラス席では明治神宮の緑を眺めながらお茶が楽しめます。ここのガレットは美味でした。ぜひ、くつろぎに出かけてみてはいかがでしょうか。
02.東急プラザ表参道原宿
2012年にオープンした、原宿と表参道のちょうどあいだにある商業施設です。決して広くはない建物平面ですが、屋上のほとんどが広々とした屋上テラスになっており、ファサードにも”都市の森”が現れています。
設計は中村拓志さんです。ハイエンドな住宅を多く手掛けられていますが、たまに大型施設を設計されています。そのデザインスタイルは、Optical Glass Houseなどに見られる、アウトサイド・リビングのデザインにこだわりが感じられます。リンク張っておきます。
この東急プラザ表参道の良さは、2点あります。アプローチにある、エスカレーターホールの人を引き込むようなミラー天井と、高木を植えた森のような屋上テラスです。
ミラーガラスパネルは、壁から天井に有機的に繋がり、多角形の形状をしています。多角形であることにより、パネルごとに違った風景を映し出します。あるパネルでは空をうつしたり、隣のパネルでは表参道の街頭を映している。合わないパズルのように断片的に、まちを取り込んでおり、さながら異空間に歩行者を引き込んでいくような演出がされています。
屋上テラスでは、高木がたくさん植えられており、ここは地上ではないかと錯覚を覚えます。そんな都市の森では、様々な種類の鳥がさえずっています。ショッピングフロアにいる人よりも、テラスのほうが人が多いのでは、と思うくらい羽を休めに来ている人で賑わっています。
この施設は、目的として屋上テラスに行くのではなく、休憩ついでにふらっと立ち寄れる。民間の施設でありながら、公園のような機能をはたしています。
03.ジャイル
表参道ヒルズの手前に、不思議なかたちの建築があります。2007年にオープンした建築、ジャイル(GYRE)です。
設計はオランダの設計チーム、”MVRDV”と竹中工務店。MVは、日本ではほとんどなじみがありません。他で思いつくのは、まつだい雪国農耕文化村センターくらいでしょうか。オランダの高齢者のための集合住宅「WOZOCO」が有名でして、ヴォリューム(量塊)を操作して、個性的な形態の建築を次々と生み出しています。
ジャイルは、奥行きの深いキャンティレバー(片持ち)がでこぼこと飛び出しており、その飛び出した部分の床が、屋外の客席としてのテラスとなっていたり、屋外階段となっています。
最上階のテラス席は圧巻で、キャンティレバー長さは最大約5.7m(ざっくりとした計測による)となっています。
天井高さ3.9メートル、軒の深さ5.7メートルの空間は、多少の雨風が吹いても室内側まで雨が当たりません。夏の日射もいとも簡単に遮る、本当に気持ちの良い空間でした。
室内側に、オバケのようなサイズの梁が控えており、片持ちの形態を実現しています。
ニューヨークにあるMOMAのアンテナショップも入ってるのでデザイン好きなファンにはたまりませんね。
ちなみに、ウィズ原宿も、ジャイルも竹中工務店が設計にかかわっています。他にも、SANAA設計の21世紀美術館など、多数の有名建築家とタッグを組んでいます。建築家のアイデアを効果的に実現する技術的なバックアップを担当されているのでしょう。美しい建築は、高い技術によって支えられているということです。
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都市のアウトサイド・リビングのある商業施設、いかがでしたでしょうか。
商業施設はその性格上、売り場の床面積を最大にとるよう設計されます。ちょっとテクニカルな話をするので、アミカケ内飛ばしてください 笑。
商業施設のみならず、テナントビル、集合住宅は許容容積率(敷地に対する床面積の法的な割合)が許す限り、床面積を確保することがクライアントとなるデベロッパの目標となります。主として、賃料収入を増やすために。外部空間は床面積として計上されないし、収支計算にも含まれないため、どうしても二の次になります。外部空間は、デベロッパにとっては利益になるどころか、ただ工事費を上げて利益を下げる空間なのです。紹介したような豊かな外部空間をつくりたいなら、ヴォリュームを決める設計初期段階から、クライアントをじっくり説得し、床面積を最大に確保しつつ、天空率計算や日影計算を駆使して、意識して外部空間をつくっていかなければならないのです。床面積が許容容積率に届かないのに、外部空間をつくっても十中八九、採用されることはありません。ここに、設計戦略とテクニックが必要なのです。
建築家は、そんなたゆまぬ努力で面積を確保しながらも、豊かな外部空間をつくりだすアイデアを生み出しています。商業施設としての魅力はもちろん、都市や社会にもいい影響を与えています。
紹介した3つの建築は、奇しくも昨今の流行よりも前に計画されたものでありながら、無限に空気が希釈される外部空間を全面に押したコンセプトになっています。都市の中で、心地よい風を感じながらくつろぐこと。
まちで暮らすことに豊かさを与える、利他的ともいえる都市のアウトサイドリビング。このデザイン形式は、今後はさらに重要なデザインコードになっていく気がしています。
ではでは~。今後とも、本編のほうもよろしくお願いします!
ぱなおとぱなこ
※今回紹介した建築は、機会があれば個別に記事にしていこうと思っています。商業建築って、メインとなるショップはC工事(別途内装デザイナーが設計)だから建築として記事にするのが難しいんですよねー、だから機会があれば。。