矩計図による検討手順を具体的に!
1.はじめに
建築設計のせかいに入って、14年がたちます。僕は、世間でいうところの、中堅の建築設計者といったところでしょうか。
矩計図(かなばかりず)は、設計図では欠かせない図面です。たとえ建築確認申請は通せても、矩計図がないと施工ができません。
なぜなら、その建築の各部材・部位がどうなっているかの総合的な納まり、また仕様に関する細かな設定が矩計図で表現されているからです。
矩計図がない設計図は、イチゴのないイチゴショートケーキのようなものです(笑)
そのくらい、すごく重要な図面ってことです。
この記事の趣旨は、建築設計ライフを楽しむため、矩計図は設計図としての魅力のみならず、検討材料としての矩計図に興味をもってもらいたいのです。
2-1.矩計図の手順を紹介する理由
矩計図の作図手順を記したブログは、少なからず存在するようです。しかし、多くは文字のみで書かれており、実際の図面を交えて解説されていないため、イメージがしづらいのは否めません。
また、多くの製図本や雑誌でも矩計図の作図について解説されていますが、すでに完成された図面が多いです。
実際、矩計図を書き始めて、完成するまで、エンジニアリング(法律・設備・構造・納まり・性能)を入力しながら何度も図面を修正していくことになります。
実施設計で、いきなり完成された設計図を目標にして矩計図を書き始めると、ぱたりと手が動かなくなります。それは、一般の平面図や断面図で表しきれない、部材構成や部位のイメージができていないから。
それならば目標を変えて、エンジニアリングは仮定(そう遠くない想定で)として、基本設計段階から検討し始めて、美しくおさまった設計図を書けばよいのです。
2-2.学生さんも新人さんも恐れずに描いてほしい矩計
僕も建築設計業界に飛び込んだ当初は、かなばかりの「か」の字も書けませんでした。なぜなら多くの場合大学教育では、しっかりとした描き方や勘所を教えてもらえる機会がなかったからです。
でもですね、僕はデザインがしたかったので、矩計図作成は避けて通れませんでした。何故なら、矩計図が描けないと、かっこいい窓回りや、建築の全体のデザインをしようとしても、いつまでたっても絵にかいた餅だからです。
僕は、みようみまねで先輩の描いた矩計図をそのまま描き写したり、社内で完成した案件の図面を貪るように見て、設計図と実際の現地を照らし合わせながら徐々に学び、描けるようになっていきました。
描き続けるうちに、矩計図は、デザインを考えている基本設計段階にこそ、有用だな、と考え始めました。
なぜなら、基本設計の段階で問題が解決すれば後の実施設計で楽になるし、案がまだ固まっていない基本設計ならばこそ、矩計図の検討によって平面図や断面図や立面図を容易に修正することができるからです。
学生さんにも朗報です。デザインコンペでも有用ですよ、矩計図は。図に説得力が増しますし、濃いめの図面になるので、プレゼンとしての見栄えが良くなりますしね。
何より、デザインの段階で、できるだけ具体的なイメージをつかむためにもよい表現方法です、矩計図は。
3.スタンダードな仮想建築物を検討
この記事では、ある仮想の建築物を設計しているとして、基本設計段階で使える矩計図による検討方法を手順を追って、解説していきます。
残念ながら、デザインあふれる特殊な納まりはありません。いたって基本(僕が学んだ基本という前提で恐縮ですが。。)的な納まりの検討です。
しかし、基本を知らないと応用はできないということと、もし初めてこの記事で矩計図を見た人にとって特殊な納まりだと、実際の設計で活かせないからです。
一応、設計のノウハウともいえる記事なので、有料noteにさせていただきます。初めてです!ドキドキ。。
目次でざっくりと手順がわかりますので、有料ゾーンに進まなくてもある程度わかると思います。さらに、購入いただければ、図面を交えて設計の勘所など伝えているので、より深く知見が得られると思います。
仮想建築物の、設計条件を記します。
・3階建ての事務所、鉄骨造
・商業地域で日影制限なし、道は建築物高さに対して十分広い。
・延焼の恐れのあるラインもないものとします。
・地区計画など、条例等による法令の制限はないものとします。
・平面図・立面図・断面図まで作図して、基本的な矩計検討をスタート。
次の章から図面を交えて解説していきます。
さあ、見ていきましょう。
4-1 検討前の準備
さあ、真っ白い図面に書きましょう。もちろん、CADでも構いませんが、縮尺が無限に伸び縮みできるため、本当に納まっているのか最初のうちは判別できません。
てことで、手書きで紹介していきます。
基本設計段階なので、1/50のスケールで進めていきます。実施設計になると、詳細納まりを検討するので、1/20や1/30で描いた方が良いですよ。大きい図面のほうが、施工者との設計図の解釈の齟齬がなくなります。
用意するもの。
4Bの鉛筆ー柔らかいので、描いては消す行為が容易にできます。手が疲れません。
A3サイズの紙ー水平垂直がとりやすいため、5mmグリッド用紙が望ましいです。が、線が見えづらくなるため、本記事では白紙で進めていきます。
30センチの三角スケールー小さい三角スケールでは書けませんよ。大きく描いてナンボですから。
消しゴム、ドラフティングテープ(写真は養生テープ)
以上
4-2 基準線を描く
重要な基準線を最初に書いていきます。
敷地境界線、構造躯体の通り芯、各フロアレベル(FL)250、鉄骨梁の天端の寸法です。
特に、鉄骨梁の天端の決め方は、少々の計算を要します。
スラブ厚は案によってまちまちですが、構造の決まっていない仮の段階のため、150mm厚としています。
事務所建築のため、床のOAフロアは欠かせません。OAフロア高さは標準的な100mm厚としています。
(余談ですが、この仕上げレベルは、OAフロアなんていらないよ、タイルがいいという場合は50mmで十分でしょう。)
スラブ厚+OAフロア寸法確保のため、梁天端のレベルは、FL-250mmに設定しました。この梁下がりを設定した段階で構造に連絡しておいてくださいね~。
4-3 躯体を想定で描く
鉄骨梁天端を決めたら、鉄骨梁、スラブ、基礎部、パラペット部を描きます。
鉄骨梁はよっぽどの理由がない限り、柱の中心線上に架かります。X軸方向
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