認識と身体 アワウタトオドル
タントラと身体
タントラヨガの中では、身体は精神の住まう聖域であり、神の小宇宙であるとみなします。タントラの世界では生身の肉体を、神聖な魂の神殿へと変貌させるためにはさまざまな儀式が必要でした。なぜなら無意識に行うことも含め、全ての動きはリチュアルであり、私たちは日常のささやかな動きの中で「私は~である」という概念を構築しているからです。それはつまり、自分の生きる時代の社会背景や価値観の影響を受けて肉体は作られるということです。人間は社会性を身につける中で、「神として在る」意識を少しずつすり減らしているとも言えます。
タントラでは「すべてはひとつである」ということを完全に理解し、世界の根源と繋がりを確かなものにするために、「生」というものをさまざまな角度で見つめます。そのためにさまざまな行や瞑想を行いますが、日常の中で「私たちは個である」という概念を染み込ませるようなリチュアルを気付かず積み重ねていては、その努力も虚しいものになってしまいます。
例えば、先住民族の家には扉がありません。家に入る時、出る時、それは呼吸をするように境界線が曖昧です。暮らしの中で「境界線」という概念がないのです。ところが現代の家ではピシリとドアを閉めます。ドアノブや鍵まであり、「閉める」ということを意識的にさせられます。ドアを締める時、「私たちは分離された個である」という認識を増幅させています。このように私たちは無意識のうちに、動きを通して自身を洗脳し、「ひとつである」状態とかけ離れた身体感覚を養い、感性を育てているのです。(これはドアのない家に半年ほど暮らした後に、ドアと鍵のある家に暮らしたことがあり、その時に自分の概念や身体感覚がすっかり変わっていたことに気がついたのです。)
タントラと舞踊
タントラ文化の中で、舞踊とは瞑想状態でカタチを降ろすものでした。たとえカタチを降ろせない人であっても、降ろされたカタチをなぞり、繰り返し踊りマスターしていくことで、「カタチをおろした舞手のその時の意識の状態を体験する」ことができます。それはちょうど、リシ(古の修行者)達が瞑想での意識状態を受け取り、その弟子に伝えていった時と同じやり方です。舞踊はそのカタチを見ることで、そのそのカタチが下された時の意識状態のエッセンスを受け取ることができます。それが舞踊の始まりでした。ムドラはそのようにして修行者、探究者達によって降ろされたものの一部です。
このようにインドでは「創造の聖なる源と一体化する」ということを「肉体の動き」を通して表現することが舞踊であり、それをする人、舞踊家は神に人生を捧げる者でした。
もしその舞踊家がエゴから踊っていたのなら、見るものにエゴのバイブレーションを届け、世界にエゴのエネルギーが拡大していきます。それがTVを使ったプロパガンダに利用されているシステムとも言えます。混乱を持っている人であれば混乱を、慈悲の心を持った舞手が踊ったのなら、慈悲のバイブレーションが届けられていきます。叡智と繋がる人が踊ったのなら、叡智のエッセンスが響き渡ります。
舞踊とは空間に大きなエネルギーを放つ分、影響力が大きく、だからこそ舞踊家は誰しもグルと共にタントラの哲学を学び、自らの生活や魂を顧みて、その純粋性を保つ、ということを真っ先にやる必要があったのです。それが私がインド舞踊の師匠の家に住み込みで学んだ時に教えていただいたことでした。
舞踊と意識
それでは、現代社会の価値観から生まれた動きを繰り返す中で育った意識と感覚を、「ひとつである」意識に適応させていくためになにができるでしょうか?
新しい価値観や世界観を概念的に学ぶことももちろん有効ですが、身体に蓄積された情報である「筋肉」を、神聖なウゴキによって育て、その肉体から生まれる「動き」を変えてしまうことは、よりパワフルなやり方と言えるでしょう。
舞踊とタントラを学ぶ道すがら、踊ることで「ひとつである」意識に近づいていけるようなダンスの型を作りたい、とずっと思っていました。
20年近くに渡りyogaの練習をする中で、女性の意識や肉体を耕すにはこの動きでは不十分だ、と感じていたからです。
そしてそのような思いから、ダンスの本質を伝え、踊る人のコースを作ろうと決意し、「ダンスメディスン」という私が35年のダンス人生からお届けしているダンスのワークのプラクティショナーコースと指導者の育成コースを作っていた時にやってきたのが、アワウタへの振り付けのお話でした。
アワウタトオドル
その流れでバイロンベイでメディスンソングを歌っているMico sundariと繋がり、彼女の歌うアワウタに合わせて振付をすることになりました。
この振り付けは、私自身が彼女のコースに参加してアワウタと音霊について学び、一つ一つの音霊にカタチをのせて作ったものです。「エレメントを理解し、母なる大地と繋がる」という意図を込めて。
この振付を踊ることで「宇宙の根源と繋がって体現している」という在り方を育てていけるように。
踊りを通して育っていく、力強い足腰としなやかな背骨、優しい腕の動きがそれが現実のものとなるようにサポートしてくれます。
できないことができるようになる、って、気づきもせず、可能性を信じることもせず、光を当てていなかったところに、光を当てていく行為。「できない」は「できる」へのプロセス。
肉体=現実
この三次元世界で多次元的に自由に生きるために必要な、強くしなやかな肉体。それをマスターしていくための一歩を踏み出しましょう。
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