足音
学生の時から日曜日の夜はあまり好きじゃなかった。次の日が学校だからというよりも地元のAMラジオ局では停波する時間帯があり、日曜日の午前1時には放送が終わる。それがたまらなく嫌だった。無音に耐えられず時には雑音混じりの放送を探すこともあったぐらいだ。
ちょうど2週間前だろうか、とても怖い思いをした。自分の部屋で生首を目撃したのだ。その時の恐怖も幾分薄れてきた頃に再び恐怖は訪れた。
その前に部屋の構成の説明を簡単にしておく。
僕の部屋はドアを開けると入口すぐ左手に大きな箪笥、入口正面にはハンガーラック。このハンガーラックの上部にはスニーカーの箱が4つほど置けるくらいの棚がある。部屋の中に進むと箪笥の裏には机と椅子、そしてその奥にはベッドがある。部屋はフローリングであるが椅子があるためそこだけカーペットを敷いている。部屋の広さは6畳でそこまで広くはないが学生の僕には充分だった。
寝る前に椅子をベッドの隣へ運び、机上にあるラジカセを椅子の上に移動させる。部屋の明かりを全て消灯させ、ラジオを聞きながら寝ることが日課になっていた。
その日は日曜日。
ラジオ放送のプログラムが終わるので早めにベッドに入るつもりが結局、ラジオ放送が終わる30分前にベッドに入った。そこで眠気が訪れるのを待っていたが、いつもに比べて妙に寝付けない。遂にはラジオ放送のプログラムが終わった。その日は珍しく他局へチューニングして放送を探さず、観念してラジカセの電源を落とした。これは何故か正確に覚えている。
椅子の上のラジカセに背を向けるように寝返りをうって間もなく、部屋の入口付近で何かの音がした気がした。最初は気にも留めていなかったよ、次の瞬間まではね。
聞こえたのは確信できるぐらい鮮明に聞こえた部屋のフローリングを踏む音。
部屋に誰かいる?と思い、ベッドから起き上がり机に備え付けられているライトを点け、部屋を見渡す。もっとも見ている位置からは部屋の入口付近は箪笥が邪魔して見えないが灯りの先に誰かがいるようには思えない。それ以上は特に気にすることもなくライトを消して横になる。
横になって間もなく、また音が聞こえる。フローリングを踏む音。そしてその音はゆっくりだが近づいてくる!焦りと恐怖。それに反して動かない身体。そうしているうちに籠もった音が聞こえる。明らかにカーペットを踏んだ音であり、それは僕の目前にまで迫っていることを意味していた。
足音はそこで止まった。僅か数秒がとてつもなく長い時間に感じる。僕はこの恐怖と緊張感の中、意を決して起き上がり勢いに任せて机のライトで部屋を照らす。誰もいない…必死になったのに少し拍子抜けだ。とはいえ、部屋を真っ暗にして寝るのは流石に怖く感じ、そそくさとベッドから降りて部屋の入口付近にある室内灯のスイッチを入れる。部屋全体を見渡しても何も変わらない。少し眩しいけど安心して寝れるなら別に苦にならないと割り切った。
改めてベッドに入り、仰向けになる。
明るい分、心なしか安心して目を閉じることができたが、ふと目を開いた瞬間、明らかに異質な何かが目に入った。
そこにいたのは恐らく人だったもの。それがベッドに横たわる僕を覗き込んでいた。目の辺りが真っ黒だったことに形容し難いまでの恐怖を覚え…
僕はそのまま気を失ったのだろう。
母親が呼ぶ声で起こされ朝を迎えた。すぐに室内灯が点いたままであることに気付き、夜中に何があったかを思い出しあたりを見回した。思わず身震いがした。もう『無かったこと』にはできなかった。
当時の僕は心霊関連に異常なまでの興味があって、とにかく『見たい・見えるようになりたい』と思っていた。だけど、この件を境にしてそう思わないようになると不思議なことにラップ音などの現象が無くなった。正しくは『周波数・チャンネル』を合わせようとしなくなったからかもしれない。
今思えばこれまでの数々の現象・事象はある種の警告だったのだろう。いや、そうに違いない。