熱い気持ちと経験値
★7月になりました。
今年の前半終了ですね。私は最近人前で話をすることが増えてきました。研修の講師などです。元々大勢の前で話すのは苦手で、今でも緊張しっぱなしですけど、修行だと思ってお引き受けしています。
でも私の仕事の基本は患者さんの診察です。いろんな患者さんとお会いしていますと、次第にある程度パターンがあることに気づきます。もちろん全く同じではありませんが、人間の精神構造の基本は同じなので、こういうストレスがあると、こんな症状がでる。そしてこのように経過していく、ということがなんとなくわかってくるものです。経験値というやつです。数回の診察で、患者さんの経過はある程度は予測できます。そして診察を重ねながら、自分が何を手伝えるか、どうすればできるだけ速やかに回復に導けるかを考えながら修正していきます。
そう聞くと、すごくベテランな感じがしますが、30年以上も精神科医をして思うのは、経験を重ねるほど、患者さんがよくなるのは、自分の力じゃなくて、患者さんのおかれた環境や、かかわる人たち、そして何より患者さん自身の力で治っていくものなんだ、ということです。
私の仕事は、その患者さんが、自身を助けてくれる資源をどれだけもっているかをチェックすることで、ある程度もっているひと、つまり周囲に理解ある人が少しはいて、患者さん自身も自分を客観視でき、何をすべきかがわかるようなタイプなのか、理解ある人がほとんどおらず、それどころか患者さん自身を傷つけるような人が周りにいて、かつそこから逃げるとか、立て直す力が弱めなタイプか、それを見極めることなのです。
前者に近い方だと、車で言うと自動運転みたいな、行く先を提示して、どこで休憩すべきか助言するくらいで、おのずと回復します。後者に近い方は、経済的な問題の対応や、環境整備も大事で、家族調整や行政のかかわり、訪問看護など他の業種の方とも連携し、患者さんを支えるネットワークを作ることが必要になることもあります。薬の治療はその一部にすぎません。
そういった自分の経験を話せる機会がもてるのは、ありがたいことだと思っています。でも経験値はあるに越したことはありませんが、ともすると「わかったような気」になる落とし穴があります。そうなると大抵何かが起きて、反省!という事態になります。若いときは確かに経験もなく不安でした。迷いながら、ひたすら話を聞くしかないけど、その謙虚さがよかったときもあり、経験不足で治療がうまくいかないときもありました。どんな医者にどんな時に出会うか、縁もあります。
若いときの情熱にはもう勝てないけど、気持ちは絶やさずいようと思います。でも熱い気持ちはあっても、やっぱり部屋は涼しいほうがいいですね!