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小難しい2、文学の定義(文学とは何か⑪)

小難しい表現が文学か、続き。
ぜんぜん難しくはなさそうでも、言葉の並びとか、はっとさせる働きで、ふだんとは違った表現で、文学世界をあらわそうとする文章がある。

吉本ばなな氏の『TUGUMI』を読んでいて、はっとさせられる文章があった。
この人の文章は、平易なように思うが、独特の言葉運びがある。(それは計算されたものだと、作者は語っている。)
また、突然異界に飛び込むような、いわゆるスピリチュアルな面がある。
少女漫画を取り込んだというような、オノマトペを含む表現も見られる。

そして海は、見ているものがことさらに感情を移入しなくても、きちんと何かを教えてくれるように思えた。そんなふうなので今までは、その存在や、絶えず打ち寄せる波音の響きをあらためて思うことはなかったけれど、都会では人はいったい何に向かって「平衡」をおもうのだろう。やはり、お月様だろうか。しかし月は海に比べたらあまりにも小さくて、何だか心細く思えた。

吉本ばなな『TUSGUMI』P32

文章自体が、主人公の不安定な心情が「満ちたり引いたり」している、以前の文章へかかっているのだが、
「感情を移入」とか、突然「平衡」という言葉で大きく締めくくってしまうところなど、あっぱれと思ってしまう。

***

たとえば文学の概念そのものにしても、詩、小説、劇、文芸評論だけを文学と考え、文学史の対象をその範囲に限定するのは、おかしい。パスカルは詩人でも小説家でも劇作家でも、むろん文芸評論家でもないが、フランス文学史に特筆大書されています。

加藤周一『文学とは何か』kindle位置1709

その時代、その時代で、文学と定義されるものは違う。
文学史についても、考え直さなければならない、と。

加藤氏は、西尾先生の、

「第一に、表現されるものについて、「日常の言語における通じ合いよりも、より深い主体的真実の表現が文学である」といわれる。
第二に、通じ合いの相手は、本来多数ではなく、「独白」が文学の根本的な形であるという。
第三に、表現のしかた、つまり文学に特徴的な言語の機能があるという。」

加藤周一『文学とは何か』kindle位置2032

これらの文学の定義は違うのではないか、と、議論を深めている。
日常の言語で充分文学的なことはあろうし、
私小説(独白)ばかりが文学の根本的な形ではない、
また、文学に特徴的な言語の機能などない。

加藤氏の『文学とは何か』は難解で、私はひとかじりしかわかっていない。


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