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すきの熱量

「すきをエッセイにする」という言葉を、noteはじめる前によく見かけて、
「すき」を考えていたら
子供の頃、すっごく好きなことがあった

幼稚園のとき、
とびきりかわいい、しょうこちゃんという友達がいて、
彼女はバレエを習っていた

わたしの住む町ではバレエ教室はなかったから、
習うとなると車か汽車で十五分ほどの隣町までいかなければならない

母にバレエが習いたいといっても、
「そんなお金がかかる習い事はダメだ」
と通わせてもらえなかった

そんなわたしにしょうこちゃんは、幼稚園の
鉄棒をバーがわりにして、バレエのレッスンをつけてくれた
わたしはお土産のチャイナシューズをバレエシューズに見立ててはいた

小学校になり、しょうこちゃんは遠くに引っ越し、
レッスンをつけてくれる人がいなくなった

それでもわたしは相変わらずバレエが大好きで、
バレエに関する本やテレビや漫画、ものすごい熱量で追いかけた

高校二年生になって、
わたしは一大決心をする


親がレッスン代出してくれないのなら自分で出す
自分で通う

高一からテイクアウトの寿司屋でバイトしていたわたしは
バイト代をバレエにあてることにした
隣町の、幼稚園でレッスンしているバレエ教室を調べて電話し
通いたいことを伝えた
いま思えば、すごい勇気だと思う
いや、ものすごく緊張したな
電話を受けた人は、若干困惑していたように感じる

貯めたバイト代で
レオタードにタイツを買った
バレエシューズは友達が誕生日プレゼントしてくれた

隣町まで原付で通い、ちびっこたちにまじって、167cmもある
高校生の女子が幼稚園でどすんどすんとバレエレッスンした

どすんどすんでも、ものすごく楽しくて、
毎週日曜日が楽しみで仕方なく、
夢中になっているわたしを
当時27歳だった先生はとてもかわいがってくれた
誰だって、一生懸命でひたむきなひとが大好きだし、
応援したくなるものだ

けれど、
楽しいことにはタイムリミットがあって、
高校卒業後、進学で遠方にいくため、
そのバレエ教室も同時に卒業だった

寂しがる先生に
「先生、卒業前にトウシューズはいてみたいなぁ」
と、リクエストした

いいよ、と
快諾してくれ、なかなか高価なトウシューズを
これまたバイト代で買った

あこがれのトウシューズ
つま先立ちならしょうこちゃんと、小さいときから
ずっとレッスンしてたからまったく平気

翌週、ちびっこたちときゃっきゃ言いながらつま先にストッキングを巻き、
トウシューズをしならせ、はやる気持ちでつま先立ちした
床にコツコツと鳴るトゥの音がうれしくて胸がふるえた
トウシューズは宝物だった

しかし、
あれほどまでに憧れ、
大好きだったバレエも、
年とともに熱量が失われていった
時折見かけるバレエの記事や本は好んで見るけれど、
「すき」のパワーは、若い頃と明らかに違う

しょうこちゃんのように
小さいときからバレエを習っていたら、
ひょっとしたらまた違う人生だったかな?と思わないでもないが、
高二のとき、勇気を出して電話をして、毎週原付で通ったバレエレッスンは
案外いまでも鮮明に、やさしい記憶として残っている

「すき」があるって素敵














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