炭酸吸い

だらしない物書きです

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  • 【短編集】魔法雑貨店にありがちなだらしない商売

  • 短編小説【2,000〜3,000字】

  • 小説【4,000〜7,000字】

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【短編小説】第2品 ミニミニジェミニ

 ドアのガラガラ鐘が鳴ったので視線を流すと、誰もいないなと恋愛小説に視線を戻し、しかし「にーにー」と煩い鳴き声がするので身を乗り出す。  小綺麗な礼服を纏う、二足歩行の猫がいた。  人語が達者なようで、彼は妖精猫の王子様だと言う。 「双子の兄を殺したいにゃ」 「うちは殺し屋雇ってませんよ」 「妖精猫を殺すマタタビとかないのかにゃ?」 「しつこいなーもう。どうしてお兄さん殺したいのさ」 「王位継承式で兄のほうがボクよりマタタビを一個多く集めたんだにゃ。明日には式が始まっちゃうに

    • 【小説】終わった世界でもメイドをやっていました

      前編 戦闘メイドは死にかける  水分の含んだ空気がずっしりと肺を満たす。  廃墟の壁が脆く崩れ、絨毯のように敷き詰められた菌糸類の群生地を叩いた。  むせ返るような胞子の塊が吹き上がり視界を汚す。  ――壁の中から現れたのは、イノシシ大の革鞄を背負った青年。 「ここも人はナシと」  猫のような身軽さで三階から跳ぶ。  その所作に躊躇はない。  荷重の体でありながら、苔だらけの壁をスパイクで蹴り降りる。器用に衝撃を殺して着地した。  腕甲から立体型の地図を射影すると、宙でバツ

      • 【短編小説】人を刺す仕事の人と人に刺される仕事の人

         人を刺す仕事の人と人に刺される仕事の人は、毎週金曜日の朝九時にお互いの仕事を始めます。 「刺し役さんこんにちは」  笑顔で挨拶すると、刺し役は「こんにちは、刺され役さん」と刃渡り十五センチの出刃包丁で相手のお腹へ刺突します。 「痛いですよ」  情けない声を上げて地べたを転がるスーツ姿の男は、新品の白シャツを血で斑に染めながら目に涙を浮かべます。  それを見た刺し役の高校生は、学ランを脱いで傷口を押さえます。 「すみません、仕事ですから」 「仕事と言っても、もう少し

        • 【短編小説】隣のAくんが鉢植えに埋まったらしい

           隣のAくんが鉢植えに埋まったらしい。  ニートの僕はお隣さんの顔を見たことがないが、気の強い妹が部屋の前でそう告げたので知ることが出来た。 「お兄ちゃんいつまで学校に行かないつもり。いい加減キモいんですけど」  学校に行く前に必ず部屋の前まで来て罵倒してくるので、だらしない兄は嫌でも規則正しい朝を迎えてしまう。  妹は春風で舞った花粉にくしゃみをひとつ。 「もういかなくちゃ。兄ちゃんもご飯くらい食べなよ」  床で陶器がコツンと小さく鳴り、小煩い足音が遠ざかるのを息を殺して待

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          2本
        • 短編小説【2,000〜3,000字】
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          【短編小説】一生に一度だけの魔法

          「こいつ一生に一度しか魔法が使えないんだってさ」  冬。  リーゼロッテ魔法女学園に通う最低階級――〈ブロンズ〉のニアは、本来相手にすらされないであろう特待生――〈サファイア〉のフォルティーニャ・ローゼンバーグと、その取り巻きに日常的に絡まれている。  一口に言うと虐められていた。  理由はごくありふれたもので、「魔法が使えないから」という落ちこぼれの烙印によるものだ。  ニアは赤みがかったくせっ毛を指で遊ばせながら、日の届かぬ場所で、蚊の鳴くような声で答える。 「なに? 小

          【短編小説】一生に一度だけの魔法

          【短編小説】第1品 魔法のランタン

           ランタンが点いている間は運が付くという魔法雑貨が入荷した。それを聞きつけたイチは、 「一つください」  こちらの返答は待たずに、一枚の金貨で豪快にテーブルを軋ませた。一つしかないのに。  私は収益よりも買い求める客の意図を聞ければそれで良いので――金貨は貰えるに越したことはないので懐へ忍ばせて――聞いてみた。 「近々、告白するんですよ」  イチは豪快に口を裂いて笑った。  それで運が欲しいんだと。  筋骨隆々な大豚男(オーク)にしては、随分と小さなことを気にするなと思った。

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