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詩「pile」

現代詩手帖2024年5月号選外佳作(峯澤典子,山田亮太選)

pile

栫伸太郎

日が、樹が伸びるように 押すようにのぼり
ひかりを差しむけ、分岐させこじあけ
空に無数の見えない傷をつける
その線状の色からにじみだした手として
冬は ぎざぎざにやってくる、鳴き声を
あげて、その軌道の肌理(と勾配、
鋸歯状に波打ってかたまった布団の上で
黒くなって目を覚ました、縮こまった
鼻が詰まっている僕の体をその 足跡にして。
昼は  膨らんだ白く昏い肉が
むせきにんに空気を絞めあげてつながり、
風はごっそりと街をぬけていく
懶惰な血管がそこかしこに巨きく透けていて
屯する、雪のように重い血液が
意味の、存在のボディソープを溢して
べとべとになる辺りの 頭蓋(骨 
の道、ふゆは
自分自身の中に飛び込めない 懇ろにう
らが
えしても     冷却を望めない、脳は
燦然と泣きだししめつけられ、
足を生やし 
ばねのように誰かの目の前でしずかに 
よどんだ重力と混じり合ってはねる、
褪せた情動の、あかるくひくい気根 )乾

こともできない、散り敷いた落ち葉は
箍が外れ、飛ぶように古くなる、動かせる絵
創発された清潔でない虫の 
数と動きのように
地面でくきやかに細かくずれ続ける
台地は、パイ生地に包まれた汚い蛋白質
の欠片の 
さいしょのほうで目はもえるようにきえ
何もかもななめになったままとびかう
地軸のように
歯をぶつけながら震えるおとの 黄色い夜、
陸橋、黄色い服の人人 いっぱいに詰めて
臓器をみずみずしくゆらし とうとうと
おしつける(目を瞑ると血の
いろがみえる耳を塞ぐと血の音がきこえる)
パンも、服も ぞろぞろと厚くなるばかりだ
ヨーヨーはゆっくりと降りてゆく
だらしなくひろまった紫のそらは何の
抵抗もなく倒れつづけ
飛んでいるものは見えるようにゆっくりと
飛んでいく  その下でいつも
僕の指紋のように走るねずみやハクビシンが
草をふむ 歩幅と、夢と 脂肪の側切歯と、
なだらかにせめぎあうそれらの境界線を
羽虫の影をさがすように壁に這わせ
満ちていく誰も通らない小さな石段で
大切でないものがふえてはまたぎこしてゆく
サンドイッチはいくつでも床に落ちる
雲を存外近くに見て、回ることは追うこと
息を吸うたびに灯るぬるい瘤のさきで
氷がむずばれる このゆうかんな屋根の下で
とうめいで汚い氷が、そのままこわれ
みはるかす、水をこぼす、  めりめりと
光とキャベツをたばねてキャベツが
オルゴールの金具になって空気をひきづると
麓の
フェリーの壁も少しよごれているから
幼い冬が 蜂の尻の、ふくらむ山脈のように
そこへ、動いている  鼻が詰まっていて
難しいことは考えられなくて 
一つ飛ばしで
この上を
滑っていく理由だけを思い出しながら
一定の音をたてたままとめどなく薄く 薄く
積もっていく街だ やくにたたないまま
何もかも、
悪ふざけみたいに積もっていく

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