現代詩手帖2024年5月号選外佳作(峯澤典子,山田亮太選) pile 栫伸太郎 日が、樹が伸びるように 押すようにのぼり ひかりを差しむけ、分岐させこじあけ 空に無数の見えない傷をつける その線状の色からにじみだした手として 冬は ぎざぎざにやってくる、鳴き声を あげて、その軌道の肌理(と勾配、 鋸歯状に波打ってかたまった布団の上で 黒くなって目を覚ました、縮こまった 鼻が詰まっている僕の体をその 足跡にして。 昼は 膨らんだ白く昏い肉が むせきにんに空気を絞めあげて
現代詩手帖2024年3月号選外佳作(峯澤典子選) than 栫伸太郎 小田原城の水濠の 隅に 浮かんだ桜の花びらが流れつき かたまっていた そこを一羽の鴨が横切る 水濠の隅から中心へ 三角形にたまった桜の花びらをまっぷたつに わって つうと進んでいく 佇むもろい桜色の中央に 深いみどりの線がひかれ 残されていく そのときに 君にあいされているとわかった 城の中は水溜りがおおくて きっとそこに生きものはまだ少ない 土や 象が昔住んでいた場所があって、どこまでも 白く白
現代詩手帖2024年2月号選外佳作(山田亮太選) tread 栫伸太郎 風がこわれていると お前はいう こわれたまま素早く横切っていく 夜の 広いアスファルトの上を、 両端から引っ張られるように 道も、空気も平たい 川は鉛筆の芯のように淋しくくろく 零されたように ひちひちと歩く お前が今ここにいないということを、私は 理解できているのだろうか 雲がやけに明るく 空にも起伏や勾配があるということ、 ひびのような電流がおおっている水平な懸崖、 お前の分も見たい 川面の上
現代詩手帖2024年1月号選外佳作(峯澤典子選) tilt栫伸太郎 黒くなった土を、はじめ足元に やがて少しずつ広くなる眼下に収めながら まだあたらしい靴で 濡れたジャングルジムをのぼる ブルーグレイの ふりつもった 弱い ちいさな火薬の山のような早朝の空気を 植物や遊具や地面に 少しずつなでつけるような たくさんの 遠い窓が見える、 見られる場所にいる ベランダや鉢植えに 囲まれている まだ 早いので 電気のついた窓は 飛び散った、 飲み残された牛乳のように
『ユリイカ』2023年9月号佳作(大崎清夏選) 七月の見えない点景 栫伸太郎 七月の 窓の外に 空気がある 窓の中にも 空気がある 暗くなってきたので 窓を開ける 外の方が涼しいので 窓を開けておく 部屋は すぐには涼しくならない 時間がかかる 部屋の温度は 時間に守られている 僕の体の温度も 時間に守られている 時間をかけて この部屋の温度の一部は 僕の体がつくり 僕の体の温度の一部は この部屋がつくった 僕とこの部屋は 時間を 貸しあたえあっている
現代詩手帖2023年7月号選外佳作(山田亮太選) 円いやみ 栫伸太郎 水平線、 ぼ 僕は誰に も たどり着く ことが出来ないあな たを 回り続けるこ としか出来 ない僕 はシャツを もらえない個だい くつもシャツを吐き 出してきた紅葉 を強要するように気 圧が侵 略し てくる 僕は絶対的に一つ だ僕は何 よりも巨きい 何よ りもくらい一 つの歯一 つの舌 僕は伸 びる伸び続ける僕 は乱視 だ世 界はどこまでも 続く等距離の二つの 交わらない 。 反っ た車海老の
現代詩手帖2023年5月号選外佳作(小笠原鳥類選) 歯列イール 栫伸太郎 頭を左右にちゅうくらいに振りながら いづれかの椎骨とまっすぐな散歩にでかける 三倍体の僕の部屋には三倍体の(側切歯状の) じゃがいもみたいな何かがオニヒトデ の中身を抓るように放射状に増殖し続 けている あるいは自らの側扁な虹彩の中身 を運びこみ 続けている、米の鱗のようなクエ、 ミゾゴイその他蟠った車道外側線の軽妙な裸 を沈着させたウロコタマフネガイ「海は私の (内臓でありむしろ自らの
2022年度の南日本文学賞受賞作、詩15篇「雨雨」を公開いたします。 (noteの文面では元の書式が一部反映できなかった部分があるため(特に「泡にかんするー」と「天空とその模写」)、PDFでの閲覧をお勧めしています。) 75.1 風は草むらの中に口髭をたくわえた その猫たちは尻尾を立てて歩き去る 乱れた毛皮を連れて 私たちよりも地面に近く 風を目に映して 風は進み 風はその後を追う 風は風の道になる その青い目の猫は芒の中でこちらを向いている ドラム缶